君の匂いを知っている




 怒りとも悲しみとも言えない気持ちが収まってきて、帰ろうとした時にふと手を掴まれた。

「やっと、見つけた……!」

 はぁはぁ息を切らしながら手を掴んできたのは梛だった。梛の瞳には、うっすら涙が浮かんでいた。俺を見つけるなり、きっと睨みつけて「ばか!」と怒る。

「何で置いてくんだよ、恋人なのに!」とぱしぱし叩いてくる梛に、昴は声を荒げずに、少しだけ講義するように言い返した。

「恋人なら、何他の人と楽しそうに話してたんだよ。二人で来たいって言ったの梛だろ?」

「え? 嫉妬? 嫉妬しちゃってんの?」

 片手で自分の顔を塞ぐ昴をまじまじと見ると、耳まで真っ赤になっているのが見て取れた。冗談まじりで言ったのに、意外な事実を知ってしまって梛も顔が熱くなる。お互い、恥ずかしくて相手の顔が見れない。

 しばらく照れくさそうに顔を伏せていた梛が、やっとのことで「戻ろう」と呟いた。昴は頷いて、二人一緒にビーチパラソルに戻った。