一気に時間は過ぎ、それぞれが新学年を迎えた。昴は高三、梛は高二、りさは無事高校に特待生で合格して高一に。
梛も、だんだん馴染んで本当に自分の家のように過ごせるようになった。りさや実里とも仲を深めて、昴とはなんとなく“偽カップル”を続けたまま、曖昧な関係が続いていた。
初夏、少しずつ暑くなりだす時期に昴は梛を海に誘った。海に二人きりで行きたいというのは梛のご要望だ。
電車で一時間くらい揺られたら、青く澄み渡る海が見えてくる。
海が見えてきて梛はぱっと目を輝かせた。
「……俺、海初めて来た」電車の中で静かに喜ぶ梛を見て、昴は微笑する。
「初めて来る相手が俺で良かったのか?」
納得できない、みたいな顔で梛は俯いた。「昴じゃないと嫌だよ」
その言葉に深い意味を考える事もなく昴は「そーか? ありがとな!」なんてお礼を言ってしまう。
『次は、終点〜終点です。ご乗車ありがとうございました』
電車のアナウンスの数秒後に電車がキーッとブレーキの音を鳴らしながら止まった。梛の手を取って駅の改札をぬけると、目の前には海が広がっていた。
こうやって遊びに来る人の為に設けられた更衣室で水着に着替えて、歩いていると海の家、と書かれた看板が吊り下げられている店を見つけた。
中はどこにでもありそうな、ありきたりな売店だけどテイクアウト用の食べ物も売っているみたいだった。その海の家から美味しそうな匂いが漂ってきた。
「そこで昼飯買ってこうぜ」
お昼時で、混み合う前にと二人でメニューを見る。
焼きとうもろこし、ポテト、焼きそば、たこ焼き、おにぎりなどのメニューだけじゃなく食後のデザートも売っている。
「どれにする?」
「どれも美味そう……んー、じゃあ昴のチョイスに任せる! 俺この中なら何でも食えるから!」
「了解、後で行くから場所取りしといてくれない?」
「おっけー!」
日焼け予防万全の梛がビーチパラソルを設置し出したのを見届けて、昴が開いた出窓に向かって海の家のスタッフに声をかけると肌が健康的に焼けている爽やかな男性スタッフが出てきた。
「すみません、注文いいですか?」
「はい、承ります」
「焼きとうもろこしと、ポテト、焼きそば二つください。あとクリームソーダ二つ!」
「お会計1900円になります」
財布を取り出して、1900円ぴったり払うとすぐにあつあつの焼きとうもろこし、ポテト、焼きそばが紙袋に入れて提供された。段取りの良さに思わず感心してしまう。
紙袋を受け取った後すぐにクリームソーダを手渡され、俺は会釈をしてその場を離れた。



