「あ、梛おはよ。」
むくっと起き上がった梛に声をかけると「おはよう……って、今日も半裸!?」なんて驚かれる。昨日と同じ状況で、また同じように驚かせてしまって少し申し訳ない。
「昨日風呂入らず寝落ちしちゃって。さっき入ってきた」
「俺も入りたい! 良い?」
「良いよ、上がったらリビングおいで」
昴はヘアオイルを髪にくぐらせて、ドライヤーを済ませた。身支度をサッと終えて、卵雑炊を作りにキッチンへ向かう。
まず、ボウルに卵を割り入れて溶きほぐす。鍋に水、白だし、薄口醤油、みりんを入れて中火で加熱し、沸騰したらごはんを入れて煮る。
沸騰したら弱火にして五分程加熱する。ごはんが柔らかくなったら中火にして溶き卵を回し入れる。
卵が固まり始めたら全体を混ぜ、卵が固まるまで中火で加熱し、火から下ろす。
小さじで卵雑炊をすくって味見してみると、安定の美味さ。
昴は小学生の頃から実里に料理を学び出した。家族の中で一二を争うレベルで料理が上手いのは長年の積み重ねがあってこそだ。
卵雑炊を皿によそっていると突然ガチャガチャと鍵穴に差し込む音が聞こえた。
「ただいまー!」と実里が帰宅。
昴は手を拭きながら廊下に出る。両親共に帰ってくるのは久しぶりで、嬉しい気持ちが募る。「父さん、母さんお疲れ様。」と二人の荷物を受け取ってリビングに運ぶ。
昴の名付け親である父、恒星は「昴、梛くんの歓迎パーティーするぞ!」と元気よく笑う。連日仕事で疲れているはずなのにこの元気さは恐ろしいまであった。
「えっ、朝飯卵雑炊なんだけど……」
「プレゼント渡して、歓迎するだけだから大丈夫よ」
二階からぐーっと伸びながら降りてきたりさは恒星が帰宅しているのに気付いて駆け降りてきた。
「パパお帰り!」
「ただいま! りさにも二人からプレゼントだぞ〜」
ピンクのリボンでガサガサした素材の袋がラッピングされている。りさが紐解いて、中身を取り出す。りさへのプレゼントは、大きいうさぎのぬいぐるみだった。りさは大きいぬいぐるみをいっぱい集めるのが趣味で、りさのベッドは沢山のぬいぐるみが陣取っている。
「パパ、ママ、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるりさに、恒星と実里はどういたしましてと微笑んだ。その様子をぼーっとしながら見ていると、恒星が顔を覗き込んできた。
うわっ、驚いて大声を出してしまって慌てて自分の口を塞ぐ。
「昴のもあるんだけど、要らない?」
「要る、欲しい」
手渡されたシンプルな袋に手を突っ込む。触った感じ沢山プレゼントが入っているように思えて袋の中を見てみると予想通り一つではなく、いくつか入っていた。
パジャマとスマホケースが2セット、それと猫の小さいぬいぐるみ。
「なんで2セットずつ……?」
「梛くんとお揃いにしたら良いかなーって思ったんだけど、嫌?」
「全然。梛はどうかわかんないけど」
「え? 俺?」
タイミング良く、梛が風呂から上がって廊下に出てきた。恒星は皆をリビングに誘導させて、「まずは昴が作ってくれた卵雑炊食べよっか」と笑った。
昴とりさは、ソファーに貰ったプレゼントを置いてそれぞれキッチンとテーブルへ歩む。
昴が卵雑炊を人数分よそっている間に、交流会が始まっていた。
恒星は頭を下げて丁寧に初めましてと爽やかに笑う。「改めまして、昴の父で弁護士として働いてます。最上恒星です。梛くんと会えて嬉しいよ」
昴は、梛に出会った当初から梛の事を恒星に伝えていた。恒星も昴も梛の事を心配していて、もしも梛が家に転がり込んできても受け入れられるようにと一応準備を進めていた。
それは勿論、転がり込んでこない安全な家庭が理想だったが。
しばらく言葉を考えて梛は口を開く。「雨霧梛です。わざわざ、人様の家に転がり込んでしまってすみません。」梛が頭を下げて申し訳なさそうに謝ると恒星は「良いんだよ、人様じゃなくてもう梛くんは最上家の家族だから」と梛の頭をぽんぽん撫でた。
この時、梛が泣きそうになった事に誰も触れなかった。



