君の匂いを知っている




 白い天井が見える。薄暗い部屋の布団の上。
 梛はいつの間にか、学校に行く時の服から昴の夏用の部屋着に着替えさせられていた。昴も部屋着に着替えていて、梛の隣ですやすや寝息を立てている。

「ちょ、昴……」
 
 トントン、と優しく叩いても昴は全然気付かない。梛は諦めきれず、起きない昴に渾身の一撃を喰らわせる決意を固め、右手を思い切り振り上げた。

 その時、ぱちっと昴の目が開く。

「梛、大丈夫?」

「そんな事より、昴! 出席日数大丈夫!? 推薦とかそういうので決まるんじゃ……」

「大丈夫、俺今まで遅刻欠席無しだから」

 母さんに休むって言ってもらったし梛の高校にも連絡済みだよ、と付け足される。用意周到すぎて逆に怖い。何で昴が梛の通う通信制高校を知っているのかは敢えて触れない事にした。

「疲れてたんだよな?」

 え?と梛が聞き返す前に、昴は続けた。「急に他人(ひと)の家住まされる事になってんだもんなー、ごめんな」
 苦笑いしながら、梛をわしゃわしゃ撫でる。

 そんな事ない、ありがたかった。昴のおかげで、あんな家から出てこれた。昴が謝る事は一つも無い。心では嬉しいと思っているのに、身体が言う事を聞いてくれない。

 ぼろぼろ、目から雫を落としながら啜り泣く。それを見ても、昴は何も言わずに抱き寄せてただ梛の頭を優しく撫でる。梛も昴に縋るように抱きつく。


 ただ、静かな空間の中で二人だけが抱き合っていた。