君の匂いを知っている



「ふぅ……こんなもんか」

 昴に手伝ってもらいながら、荷造りを10分程度で簡単に済ませた。キャリーケース1つとリュック2つ。これで梛の持ち物は全部まとめられる。最低限の物しか持っていないから、という悲しい現実だけど。

「荷物少なっ」

 昴に驚かれて最低限の物しか持ってないから、とは言うのもなんだか恥ずかしくて言葉を探す。

「家出たくて、常にまとめてたから……」

 嘘は言ってない。本当の事だ。俺は一刻も早くこの家を出たかった。昴が何か言うのを待っていると、案外あっさりと「あー、やっぱりな。そうだと思ったよ」と納得してくれた。

「何で!?」

「んー、まぁそれは内緒って事で」

 帰ってきた時もすんなり家に入れてもらえて、出て行く時も引き止められなかった。あぁ、やっぱり俺ってこの家にとって要らない存在だったんだなぁと実感させられて梛は少しだけ胸が苦しくなった。

 それに気付いた昴が、背中をトントンと軽やかに叩いてくれた。なんとなく大丈夫だよ、とでも言いたげに。

「何だよ、お前ヒーローかよ」

「そんなんじゃねーよ」

 ふざけたように言うと、昴はケラケラ笑いながら否定した。

 快く引き取ってくれた叔父にだけ、一言メッセージを送って梛は家を出た。