プロローグ

 からんからん、グラスの中で氷を回す。
 十年も経てば、もうお酒を作るのにも慣れてきた。お客さんの接客は未だに苦手だけれど。裏方の仕事は完璧だと自分でも思う。
「今日も、いつものを出すの?」
 誰もいなくなったタイミングで、笑顔で風さんにそう言われて俺は「はい」と頷く。ずっと、あのカクテルを記念日にこの店に来る恋人に出し続けているのは風さんにはよく知られているから素直に答える。
 冬になると、あの日の事を思い出す。寒くて、暗いあの場所から救い出してくれた日からずっとずっと、想い続けている。

 ほら、丁度今日も来た……ギィッというドアの音と共に。