高校二年生の春と夏の境目の休日。
 朝から俺は、家から自転車で30分くらいの距離にある『冬見山』にいる。

 頂上までは、およそ3時間。
 頂上に近づくにつれ、空気は澄んで美しくなる気がしてる。そして、山にしかいないっぽい鳥や花も顔を出して。それらを眺めルンルンしながらひたすら上へ向かう。そして頂上に着いた。達成感が全身をまとう。

 山にいる時の俺は、学校にいるときとは正反対な気持ちだ。

 開放的で、自由――。

 誰にもこの気持ちを邪魔はされたくない。
 だけど今、同じクラスの眩しい俺とは正反対の軍団、光田(ひかりだ)軍団たち五人とよりによって頂上で出くわした。出くわしてしまった……。


「黒瀬だ、何? 黒瀬山登りするの?」

 最初に話しかけてきたのは、いつも光田にベッタリ付きまとっているクラスメイト。名前は……忘れてしまった。この軍団の中では、光田しか名前を知らない。何故かというと、光田は名前の通り光を放っているからだ。身長は周りのモブたち頭一個分更に高く、顔も良すぎる。光田の顔は、例えるならいつも姉がリビングで観ているボーイズグループプロモーションビデオの、どんな時でも目が輝いている可愛い系の男みたいな。

――どうみても今、俺は山に登っているのだから「黒瀬山登りするの?」なんて質問は変だ。

「山登り、してるけど……」と俺はとりあえず答える。
「黒瀬がここにいるの、意外だな。休日は、外に出ないイメージ」
「それ、分かる!」

 クラスメイトのモブたちは言いたい放題。嫌味をいいたいとかではなく、この系統の人間はただ思ったことを何も考えずに口にしているだけだろう。

 否定するのが、もう対応全てがめんどくさ……なんて思っていると「あっちで撮るぞ!」と光田が少し離れた場所を指さし、歩き出した。すると他の軍団メンバーも光田についていった。

 スマホをセットして踊り出す軍団。軽く軍団を眺めたあとは、景色がよく見える場所に座り、緑色の登山用リュックから梅のおにぎりと水筒を出す。

――空に近い場所で、景色を眺めながらおにぎりを食べる。この瞬間のために俺は山を登っているんだ。今日も最高だ。

 動画撮影に満足した光田軍団は、一瞬休憩をした後、すぐに来た道を戻って行った。ロープウェイの話がちらっと聞こえてきたから、おそらく六合目駅でロープウェイに乗り下山するのだろう。

 軍団は、ただダンスをしに来ただけなのか? 

 こうやって、ゆっくり頂上で過ごすのが至福な時間なのに。まぁ、俺にとってはこの時間を邪魔する存在がここから消えたわけだから、むしろ良いのだけど。

 しばらくしてから俺はロープウェイには乗らずに下まで降りていった。

***