「よっし、準備はオーケーだね」

 俺は監視カメラの映像が見える部屋から、エレベーター内いるラキスト兄さんとウィンスを監視カメラから見ていた。

 ウィンスはすでに目を覚めたようだが、まだラキスト兄さんが気を失っている状態だった。

 もちろん、エレベーターの中も『仕様変更』済みである。

 液晶ディスプレイがエレベーターについていたので、せっかくなら全面をディスプレイにしてしまおうと思って、エレベーターの箱の中のすべての面に映像が流れるようになっている。
 そのディスプレイには俺の手元にあるBlu-rayプレイヤーを再生することで、映像が流れる仕組みになっている。

 そして、エレベーターの中には他に小型の高性能スピーカーを設定してあり、Blu-rayプレイヤーからでる音源を大音量で届けてくれる。

 今、エレベーターの中に流れている映像は『地球誕生の不思議』というBlu-rayの映像だ。それをとある位置で一時停止している。

 ちょうどシーンが砂漠のシーンということもあり、家電量販店の外に広がっている死地のような映像が流れていた。

 それから少し待つと、ウィンスがラキスト兄さんの体を揺すってラキスト兄さんを起こした。
 ラキスト兄さんは辺りを見渡してから眉をひそめていた。

「ラキスト様、無事ですか?」

「な、なんだここは」

 俺はラキスト兄さんがエレベーターの液晶に触りそうになったので、その前にマイクのスイッチを入れてエレベーター内に声を届けることにした。

「メビウスです。ラキスト兄さん、気分はいかがですか?」

「メビウス! 貴様っ、ん? どこにいるんだ?」

 ラキスト兄さんは辺りを見渡して俺を探していたが、どこにも俺がいないことが気に食わなかったのか、眉間にしわを入れていた。

 俺はそんなラキスト兄さんを監視カメラ越しに見ながら続ける。

「このままラキスト兄さんたちをアストロメア家に帰しても、また俺たちを襲ってきますよね?」

「当たり前だろ! これだけ屈辱を味わって、仕返しをしないなんてことあるわけがない!」

 ラキスト兄さんはこれまでのことと、動けなくなったラキスト兄さんに低周波治療器を使ったことを根に持っているのか、顔を真っ赤にしてそう言った。

 まぁ、少しやられただけでは反省したりはしないか。

 俺はマイクに聞こえるように大きなため息を吐いてから、続ける。

「やっぱりそうですよね。なので、そんな行動をとらないように、少し痛い目に遭ってもらおうと思います」

「痛い目だと? メビウス、おまえ自分の立場が分かっているのか! おまえはもう貴族でも何でもーーは?」

 俺はラキスト兄さんが話している途中で、Blu-rayプレイヤーの再生ボタンを押した。すると、ラキスト兄さん達がいるところに目がけて隕石が迫ってきている映像が再生された。

 そして、その映像に合わせて、隕石が唸りを上げている音声がスピーカーからエレベーター内に響いていた。

 ゴオオオオオッ!!
「な、なんだ、これは」

「隕石です。このままラキスト兄さんたちに堕とそうと思います」

「いやいや! 隕石? いや、なんでお前がそんなことができるんだ! 訳の分からないギフトを貰ったおまえなんかが!!」

 ラキスト兄さんは顔を真っ青にしながら、そんな言葉を叫んでいた。

 確かに、『家電量販店』のギフトで隕石を落とせるというのは無理があったかもしれない。俺はどう答えようかと考えてから、面倒になって当たり前のように続ける。

「こんなことができるのが、俺のギフトだったからですかね」

「まて! ほ、本気なのか⁉ 俺に手なんか上げたら、どうなるか分かっているのか!」

 ラキスト兄さんは辺りをきょろきょろと見て、俺の姿を探すようにしながらそんなことを口にした。

 俺はそんなラキスト兄さんの言葉を軽く一蹴する。

「大丈夫ですよ、ラキスト兄さん。隕石を食らえば死体が残ることもないので、ラキスト兄さんは行方不明になったことになるだけなので」

「ま、待つんだ! 俺は関係ないだろ! せめて、俺だけでも助けてくれ!」

 ウィンスの命乞いをする声が聞こえたが、すでに遅すぎた。エレベーター内に流れている映像は、隕石が二人に迫ってきて二人のことを押しつぶそうとしていた。

 そして、それに合わせて隕石が唸り上げる音がエレベーター何に響いていた。

「「あああああ!!」」

それから、俺は二人の悲鳴を聞いてから、エレベーターから聞こえてくるスピーカーの音をオフにして、エレベーター内にあるBlu-rayプレイヤーのスピーカーを上げた。

 ドガァアアアアンッ!!

 そして、俺はエレベーターの方から聞こえてくる大迫力の音を聞いて、耳を塞いだ。

「わっ、凄い音だな。こっちの方まで聞こえてくるんだ」

 俺はあまりの大音に驚いてから、Blu-rayプレイヤーを停止させてからエレベーターの方に向かった。

 それから、エレベーターの開けるボタンを押して二人がどうなったかを確認して、俺は顔を歪ませた。

「うわっ、低周波治療器を食らった時よりも伸びてんじゃん……ていうか、漏らしてんじゃん」

 俺は完全に伸びきっている二人が白目を向いて、ズボンを湿らしている姿を見て呆れてため息を漏らした。

 まぁ、ここまで驚いていれば、トラウマを植え付けられたかな。

 有名な話だが、熱くないはずのストーブを触って火傷を負ったり、本当は刺されていないはずなのに義手を刺されると、刺されたと勘違いをするという現象がある。

 俗にいう、プラシーボ効果というやつだ。

 液晶もスピーカーもないこの世界で、それを引き起こしてトラウマを植え付けようと考えたのが、今回の作戦だった。

 俺はそこまで考えてから、頭を掻く。

「上手くいったのは良かったけど、上手くいきすぎるというのも考え物だな」

 俺は完全に伸びきった二人を見て、そんなことを思うのだった。

 ……とりあえず、エレベーター内は拭き掃除しないとかな。