「仕様変更の結果……女の子になったってこと？」

「はい。そうなりますね！」

「いやぁ、そうはならんやろ」

　それから、俺は再度アリスに仕様変更のことを詳しく教えてもらった。

　アリスの話によると、ここにある家電はこの世界に適し物や、旦那様が理想とする物に仕様を変更することができるらしい。

　電気がない所でも家電製品を使えるようにするくらいの変更だと思っていたが、こんなに大きな変更もできるのか。
　
　俺はアリスの説明を受けてから、アリスをつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見る。

　普通、フィクションの中のアンドロイドと言えば、関節の部分とかに人工感を感じたりするものだよな？

「……どう見ても人間にしか見えんな」

　さっき誤って手を握ってしまったが、その柔らかさと温度は人間と同じものだった。

　ペッハー君が仕様変更したというよりも、急に何もない所から人間が現れたと言われた方が納得するくらいだ。

　俺がしばらくアリスをじっと見ていると、アリスが何かに気づいたような声を漏らした。

「えっと、確かめてみますか？」

「確かめる？」

　俺が首を傾げると、アリスは頬を染めながらスカートの裾に手を伸ばした。

　そして、微かに瞳を潤ませながらゆっくりとスカートの裾を上げていく。その結果、徐々に白くて健康的な太ももが――

「ちょっ、ストップストップ！」

「こ、ここで待機ですか。分かりました。恥ずかしいですけど、旦那様が望むのなら――」

「違うわ！　そうじゃなくて、なんで急にスカートをたくし上げたんだ！」

　俺はアリスに指をピシッと立てて、顔を真っ赤にさせながらアリスの行動を指摘する。

　すると、アリスはこてんと可愛らしく首を傾げて耳の先を赤くする。

「『茶髪のツインテールのドジっ子メイド』で検索すると、えっちな書物がたくさん引っかかったので、旦那様もそういうのがお好きなのかと」

「ご、誤解だ！　いや、誤解じゃないけど、誤解だ！」

　俺がそう言うと、アリスは納得していなさそうな顔でゆっくりとスカートの裾を下ろした。

　俺は落ち着くために深呼吸をしてから、咳ばらいをして続ける。

「俺は変なことがしたくて、アリスが『茶髪のツインテールドジっ子メイド』だったらと言ったんじゃない。少しの人間恋しさと、異世界への憧れから口走っただけだ。だから、アリスは今まで通りでいてくれ。無理して『ドジっ子』を演じる必要もないからな」

　俺がそう言うと、アリスは微かに瞳を濡らして俺を見つめてきた。

「はい、ありがとうございます。旦那様！」

それから、アリスはきゅっと握った両手を胸元に置いてニコッと笑みを浮かべる。

……そもそも、アリスは結構抜けている子だ。だから意識せずとも、天然の要素は含まれている。

　だから、意識してドジっ子を演じる必要はないんだよなぁ。

　何やら感動している様子のアリスにそのことを告げるのは違う気がしたので、俺は静かにその言葉を呑み込んだ。

　すると、アリスが目元を軽く指で拭ってから、俺の手を握ってきた。

「アリス？」

「人恋しさは私が埋めて差し上げますからね、旦那様」

　きゅっと握ってきたアリスの手は柔らかくて、細くて繊細な指先をしていた。

　俺はアリスに優しい笑みを向けられて、心の奥が温かくなっていくのを感じた。

どうやら、俺は自分が思っている以上に、数週間人に会えずにいたことを寂しく感じていたらしい。

　俺は自然とアリスの手を握り返していた。

　こうして、アリスはペッハー君から茶髪のツインテールのドジっ子メイドになったのだった。