「なるほど。イーナ様が気になっているのは甘味でしたか」

 俺はそう言いながら、イーナ様たちを連れて、自動ドアから地下一階へと向かうエスカレーターがある場所へと向かっていった。

 なんでイーナ様が『家電量販店』に興味を持ったのかをエミーさんに聞くと、どうやら初めに献上品として渡して置いた甘味が気になったらしい。

 国王も酒などを気に入ってくれているようだが、それ以上にイーナ様が甘味を高く買ってくれたみたいだ。

 そして、イーナ様がそこまで意見を主張するのは珍しいということで、国王も今回の視察をオーケーしてくれたとのこと。

「それにしても、相変わらず凄い数の発明品だ」

 エミーさんはそう言うと、辺りを見渡して感心するようにため息を漏らしていた。

 俺はそんなエミーさんの言葉を聞いて、小さく首を横に振る。

「別に発明したという訳じゃないですって」

「まぁいい。そういうことにしておこうか」

 エミーさんはそう言うと、小さく笑みを浮かべてそれ以上追及しようとはしてこなかった。

 なんか誤解されたままな気がするけど……必死に誤解を解くようなことでもないのかな? ただの雑談だった気もするし。

 俺はそんなことを考えながら、無口のままのイーナさんを地下の食品売り場へと案内するのだった。



「……」

「こ、これは凄いですね」

 イーナ様とエミーさんを地下の食品売り場に案内すると、二人は多く並んでいる食品を前にしばらく固まってしまっていた。

 イーナ様の表情は分かりにくいが、よく見ると目を輝かせているように見える。

 建国を考えている身からすると、イーナ様に気に入ってもらって国王である父に進言してもらった方がいいだろう。

 俺はそう考えて、ちらっと隣にいるアリスを見る。

「アリス。カゴとカートを持ってきて」

「了解しました。旦那様」

 アリスはそう言い残すと、パタパタっと買い物カートとカゴを一セット持ってきてくれた。

 カート特有のガラガラ音に気づいてから、イーナ様もエミーさんも自然とアリスが引いているカートに視線がいく。

 俺はそんな二人の反応が少しだけ面白くて笑みを浮かべて続ける。

「イーナ様。せっかくお越しくださったので、気になるものがあったら、こちらに入れていってください」

 イーナ様は周囲の商品を見渡して、真剣な顔で何かを考えていた。

そして、一つのお菓子に手を伸ばしたが、しばらく考えてそれを元の場所に戻して、また別のお菓子を手に取って、同じようなことをしていた。

 もしかして、どれかお菓子を一つだけ選ぼうとして悩んでいるのだろうか?

 なんか王女様がお菓子コーナーのお菓子を遠慮しているって、面白い光景だな。

 俺はそんなイーナ様を可愛らしく思い、小さく笑みを浮かべる。

「もちろん、何個入れてもらっても構いませんよ。気になるのがあったら、カゴに入れておいてください」

 すると、イーナ様は俺を見つめながら、ぱちぱちっと瞬きを数度した。それから、きらきらとした目で俺を見つめてきた。

 ……なんかおじいちゃんに何でも買ってもらえるのを喜ぶ孫みたいだ。

 俺はそんな微笑ましい光景を嬉しく思い、大きく頷く。

「せっかく来てくださったんですから、今日はお菓子パーティーにでもしようか」

 俺がそう言って隣にいるカグヤにそう言うと、カグヤは俺の言葉の意味に気づいたようでハッとしてから続ける。

「ご主人様、私もう一つカゴとカート持ってくる!」

 カグヤはそう言うとすぐにもう一セットのカゴとカートを用意してくれた。

 好きなだけ選べと言って、俺が何も選ばないとイーナ様も遠慮してしまうだろう。俺はそう考えて、必要以上にお菓子とかをカゴの中に入れていった。

 イーナ様はしばらく俺がかごに入れる物を見つめてから、少しずつカゴの中にお菓子を入れていった

 どうやら、言い出しっぺが何かしないとしにくいというのは、異世界でも同じらしい。

俺はそんなことを考えながら、次々にお菓子を籠の中に入れていくのだった。

 この時の俺は、何事もなければ今回の視察は上手くいくだろうと考えていた。

 そう、何事もなければ。