そして、俺はラインさんの仲間たちにも国家騎士団が来ることを告げてから、馬車が到着するまで自動ドアの前で待機をしていた。

 すると、しばらくして数台の馬車が『家電量販店』のある方に向かってきた。

「あれ? 前よりも馬車の台数が多くないか?」

 俺はこちらに向かっている馬車の台数を確認して首を傾げていた。

 初めてこの地を訪れたときも馬車の数は多かったが、今回はその時以上の気がする。

 以前貿易をした時は馬車の数が減っていたので、今回も同じくらいかと思ったが違っているようだった。

 馬車は『死地』にある農園の隣を抜けると、そのまま俺たちの目の前で停車した。そして、その馬車からは以前と同じく、エミーさんの姿が見えた。

 しかし、エミーさんは俺たちにペコっと頭を下げると、こちらには来ずに豪華な馬車の方へと向かった。

 エミーさんがいつもよりも表情が硬い気がして、俺は首を傾げる。

 すると、エミーさんたちが集まっている馬車の方から、一人の女の子が下りてきた。

 その女の子は金色の長い髪をなびかせていて、どこか気品高いように見える。お人形さんみたいに整った顔だ。そんな俺よりも三つか四つほど年上に見えるその女の子に、周囲にいる国家騎士たちは頭を下げている。

 国家騎士と言うのは、貴族上がりの人たちが多い。そんな人たちがこぞって頭を下げているということは……。

 俺がそう考えていると、その子がちらっとこちらに目を向けた。ぱちりと目が合ってしまった、俺は慌てて頭を下げる。

 徐々に足を都が近づいてきたので顔を上げると、そこには馬車から下りてきた金髪の少女が立っていた。

「エルランド・イーナ。第二王女様だ」

 エミーさんが見知らぬ少女を見ながらそんな言葉を漏らした。そして、紹介された証書は何も言わずにじっとこちらを見つめていた。

「……は、はい?」

 なんで急に第二王女の名前を?

 俺はそう考えて少女のことを見つめ返すが、少女は何も言うことはなかった。

「メビウス殿、すまない。イーナ様はその……口下手なんだ」

 すると、硬直状態になっていた俺と少女の間にエミーさんが申し訳なさそうに入り込んできた。

 俺はなぜ急に第二王女の話をし始めたのだろうと考えてから、ハッと再び視線を金髪の少女に向ける。

「イーナ様は口下手……え⁉ あなたが、イーナ様なんですか!」

 すると、金髪の少女は静かにこくんと頷いた。ただ言葉を肯定しただけのような無機質な感じの返答に、俺はサーっと顔を青くさせて頭を下げる。

「すみません! まさかさっきのが自己紹介だとは思わず失礼をしました! もちろん、こちらの理解能力が低いのが原因です!」

 グラン大国の王女様に『はい?』とか言ってしまった!

 俺が怒らせてしまったと思って顔を上げると、イーナ様は首をふるふると横に振っていた。

 俺がもう少しへりくだろうかと思って言葉を続けようとすると、イーナ様は俺のことをまたじっと見つめてきた。

 ……顔が整い過ぎているせいか、あまり直視に耐えらないぞ。普段からアリスやカグヤと接してなかったら、緊張して離せなくなっていたかもしれない。

 俺はそう考えて、静かに隣にいるアリスとカグヤに心の中でお礼を告げておいた。

 それから、俺は改めてイーナ様を見つめる。

 聞いたことはあったけど、ここまで静かな方だったとは。

 グラン大国の第二王女はどんな時も冷静沈着なお嬢様だという噂を聞いたことがある。でも、まさかここまで表情が変わらないとは思わなかったな。

「ん? というか、なぜイーナ様のようなお方が『死地』に?」

 俺は今状況がまるで掴めず、イーナ様の隣にいるエミーさんの方に視線を向ける。

 すると、エミーさんは微かに胸を反らして自慢げに続ける。

「以前に視察をさせてもらいたいと言っただろ? 実は、それを言いだしたのはイーナ様なんだ」

「イーナ様が?」

 俺がイーナ様に視線を戻すと、イーナ様はこくんと静かに頷いた。

 俺は予想もしなかった事態を前に、ぽかんとしてしまった。

 なんでグラン大国の第二王女が『死地』なんかに興味を持ったんだ?

 こうして、軽い気持ちで引き受けた視察は、思ってもいなかった大物ゲストを迎えて行われることになったのだった。