第一回の税金会議を終えて、俺はここに住む人たちに給料の配布を行うことにした。税金については、ラインさんが別で話をすると言っていたので任せることにした。

 多分、ラインさんたち側にしか分からないこともあるのだろう。せっかく良い所に棲めたと思っていたのに、突然財政難で潰れるとかを避けたいのかもしれない。

 そして、給料が支払われるにあたり、大きくこの『死地』の制度を変えることになた。

 しばらくの間は『家電量販店』の中にある食品や、グラン大国から仕入れたモノは支払われた給料からお金を払うことになったのだ。

 本当は、『家電量販店』の中のものにお金を払わなくてもいいのだが、『これだけのものを無料で仕入れるはずがない! メビウス様は無理をしているんです!』とラインさんに言われてしまい、承諾せざるを得なくなった。

 まぁ、支払われたお金はそのまま財政の方に回せばいいだろう。

 そんなこんなで色んなことが決まったあと、待ちに待った給料日。ラインさんたちと話し合って決めた給料を渡し終えると、皆はなぜか固まってしまっていた。

 どうしたのだろうかと思っていると、皆眉を潜めて何とも言えない表情をしていた。

 ……もしかして、給料が少なすぎると思っているのだろうか?

「いやいや、貰い過ぎじゃないか?」

「こんなに貰ってしまっていいのか? え、なんでこんなに貰えるの?」

「おい、ライン。ちゃんと交渉したんだろうな? こんなに貰って、国の資金足りるのか?」

 どうやら、皆不満はないらしいが不安はあるらしい。

 長らくラキストの領地にいせいで、感覚がおかしくなっているのかもしれないな。

 俺はそんなラインさんたちを見て、なんとも言えない表情を浮かべていた。

「これでも相当交渉したんだぞ! お前ら、今から税金とか今回の分配について話し合うから、ちょっとこっちに集まれ!」

 ラインさんは仲間の人たちに色々と言われながら、外テーブルの方に向かって行った。皆ちゃんとラインさんの言う通りについて行っているし、そちらで話し合ってくれるだろう。

「さて、それじゃあ俺たちも『家電量販店』に戻ろうか」

「あっ、まって、ご主人様」

 俺が回れ右をして『家電量販店』に戻ろうとすると、カグヤに肩を叩かれた。振り向くと、カグヤがタブレットを俺に見せてきた。

「え……」

 すると、そこにはペット監視カメラの映像が映されていた。俺はそこに映っている見覚えのある馬車を見て、一瞬固まってしまう。

「これ、アストロメア家の馬車だ」

「アストロメア家? それって、旦那様を『死地』に捨てたって言う家の方ですか?」

 アリスの言葉に俺は静かに頷いた。

 なんでアストロメア家の馬車が『死地』にいるんだ?

 俺はしばらく考え込んでみたが、まるでアストロメア家の考えていることが分からない。

何もない所だから、俺をこんな場所に捨てたんだよな? それなのに、一体何をしにここに来るって言うんだ?

 ……可能性があるとすれば、ここの野菜や酒の噂を聞きつけてやってきたのか?

 以前、以前グラン大国に野菜とか酒とかを献上したことがあった。ローアさんとカグヤが貿易をしているときに話を盗み聞いたが、今回の『死地』で採れた野菜や酒などの価格設定をするにあたって、有力な商人たちから意見を聞いたと言っていた。

 もしも、話が漏れているとしたら、そこから漏れたと考えるのが妥当か。

 俺がそんなことを考えていると、カグヤとアリスがやけに静かになっていた。俺がどうしたのだろうかと思って二人を見ると、二人の目からハイライトが消えていた。

「ふーん。これがご主人様に酷いことしてた人たちか……それじゃあ、お掃除ロボットに発射許可を出さないとね」

「旦那様。急用を思い出したので、少し外しますね。ご安心してください、時間はかけませんので」

 カグヤはやけに早い手つきでタブレットを操作して、アリスはどこから出したのか分からないデッキブラシを振り回し始めていた。

 俺は慌てて二人の手を掴んで止めさせる。

「ちょ、ちょっと、待った! いきなり好戦的になるのはマズいって! 戦争になりかねないから!」

 俺は二人の手を引っ張って何とか止めようとするが、二人はまるで止まる気配がない。

「とにかく、まずは話を聞いてからにしよう。それからでも遅くないから、ね?」

 俺がそう言うと、二人は渋々といった具合に引き下がってくれた。

 本当に良かった。二人が本気を出したら軽く蹴散らしてしまいそうで本当に怖い。ていうか、いつも俺のことになるとなりふり構わなくなるところは今後変えてもらわないとな。

 俺は急いでラインたちがアストロメア家の人たちと接触しないように隠れるように言って、アストロメア家の馬車を迎え入れることにした。

 本当は俺も隠れた方がいいのかもしれないけど、そんなことをしたら二人がアストロメア家の人たちを返り討ちにしてしまうだろう。

 さて、一体だれがあの馬車に乗っているのだろうか。

 俺はそんなことを考えながらも、なんとなく想像がついていた。

 すると、アストロメア家の馬車が農園を通り過ぎて、『家電量販店』の自動ドアの入口の前に止まった。

 そして、その馬車から下りてきた人物を見て、俺は小さくため息を吐いた。

「ラキスト兄さん。やっぱり、あなたでしたか」

「ん? んん⁉ なんでお前が生きてるんだ、メビウス!」

 ラキストは俺の姿を見て驚いて目を見開いた。

 どうやら、俺が『死地』に捨てられたということは知っているらしい。

 こうして、俺は久しぶりにアストロメア家の次男であり、ラインさんたちの元領主のラキストと再会を果たしたのだった。