そして、場所は再びメビウスの館。


 カグヤとローアさんの商談がようやく終わったと思ったら、一度馬車に戻ったローアさんと、大きなアタッシュケースを片手に持っている国家騎士団の人がやってきた。

 一体なんだろうかと思っていると、ローアさんは国家騎士団の人からアタッシュケースを受け取ると、机の上でそれを開いた。

 そして、その中に入っていたのは数えきれないほどの金貨が入っていた。

「メビウス殿。こちらが今回買い取らせていただいた分のお金と明細書です」

「こ、こんなにですか」

 俺は渡された詳細を確認しても、いまいち現実味が湧かなかった。今俺がやっていることなんて、三十人くらいの人を雇って大規模農家をしているのと変わらない。

 それなのに、こんなに儲けてしまっていいのだろうか?

 ラインさんたちの人数で割っても、一人当たり相当な額を分配することができるぞ。

 俺がそんなことを考えながら、目の前に置かれているお金に圧倒されていると、ローアさんがずいっと体を前のめりにして続ける。

「あと、以前いただいてしまった分ですが、そちらは代わりに我が国の肉を持ってこさせていただきました。ポータブル冷蔵庫を使わせていただいたので、痛んだりはしていないと思うので、よければ食べてみてください」

「え、本当ですか! それは助かります!」

 ここは野菜は取れるがお肉を食べる方法が確立できていない。それを貿易で確率できるというのなら、願ったりかなったりだ。

 それに、さすがにお掃除ロボットがたまに通りかかった魔物を倒すから、その肉を回収しているだけというのは、方法として確立された物とは言えないだろうし。

 俺が表情を明るくさせたのが分かったのか、ローアさんは眼鏡をくいっと上げて鞄からバサッと資料を取り出した。

「そして、こちらが我が国の肉を輸出した場合の金額になります。他にも、特産物がたくさんありますので、ぜひ次の貿易の機会にご検討ください」

「は、はい。ありがとうございます」

 俺は差し出された資料を受け取り、パラパラっとその中身を確認する。

 おお、肉だけでもずいぶんと種類があるんだな。

 俺が感心してその資料を見ていると、ぽふっと俺の体に寄りかかるようにしてカグヤも資料を覗いていた。

 カグヤは資料からパッと顔を上げると、何かを企むような顔でローアさんを見る。

「もちろん、値引き交渉もしてくれるんだよね?」

「可能な限りは、といった感じですね」

 すると、カグヤの視線を受けたローアさんもカグヤと同じような表情をしていた。

 随分と仲良くなったように見えるけど、互いに闘志がバチバチな気がするな。

 俺はそんなことを考えてから、グラン大国相手に引けを取らずに交渉してくれたカグヤに心の底から感謝するのだった。



 それから、俺たちはポータブル冷蔵庫に入っていたグラン大国から貰った物を冷蔵庫にしまい、代わりに今回取引してもらう野菜やお酒、甘味などを詰めていった。

 そして、無事エミーさんたちを見送り終わると、ラインさんたちがちらちらと俺達の方に視線を向けていた。

多分、グラン大国との今後のかかわりがどうなっていくのか気になっているのだろう。

俺はそう考えて、ラインさんたちに笑みを向けて続ける。

「グラン大国との関係は良好です。さっそく、野菜たちも買い取ってもらえましたよ。あと、グラン大国からお肉も入りました!」

「「「おおお!!」」」

 俺がそう言うと、ラインさんたちの歓喜の声が聞こえてきた。やっぱり、ただの野生の魔物の肉よりも、ちゃんと加工済みの肉が食べれるというのは嬉しいのだろう。

 俺もまだ料理もしていないのに、早くもよだれが垂れてきそうなくらい楽しみだ。

 そう考えていると、俺と同じようにテンションの上がっている人たちの声が聞こえてきた。

「グラン大国と関係を結べたら、もういよいよ国だよな!」

「買い取ってもらえたってことは、ついに給料が入るのか! これは嬉しいな!」

「ばかっ、そういうのはもっと税金とか手数料とか色々やることがあるんだよ!」

 ラインさんたちの声を聞いて、俺は重要なことをまだ決めていなかったことに気がついた。

 そうだ。税金について決めないとだ。

 あくまでここは『死地』での建国を目指している。それに、元々農業すると決めたのも財源の確保のために始めたんだった。

 税金かぁ。どうするか。

 こうして、一回目の貿易を無事に終わらせた俺は、新たな悩みに直面することになったのだった。