「とりあえず、皆さんお疲れさまです。グラン大国の騎士団との話し合いは、何事もなく終わりました」

 俺が国家騎士団を農園の外に見送って戻ると、ラインさんたちが心配していそうに俺たちを見ていた。

俺がそう言うと、ラインさんたちは張っていた気が緩んだのか、その場にぺたんと座り込んでしまった。

「よ、よかったぁ。侵略でもされるのかと思ったぁ」

「なんであんな集団でいきなり来るんだよ。まじで心臓に良くない」

「ずっとハラハラだったわぁ。普通、国家騎士団がこんな所に来ないだろ」

 ラインさんの仲間たちは各々そんな不満を言いながらも、安心したのか表情を緩めていた。

そうだよね。急に隣国の国家騎士団がやってくれば、そんな反応にもなるよね。

 俺は何事もなく終わったことに安どのため息を吐いて、胸をなでおろした。

 それから、俺はラインさんンのもとに近づいて頭を下げる。

「ラインさんもお疲れ様です。国家騎士団の方々の相手をして貰って、助かりました」

「いえいえ、頭を上げてくださいメビウス様! 私はただ館に入らなかった騎士団の方々にお茶を出していただけですので!」

 すると、ラインさんは慌てて立ち上がって俺に頭を上げさせようとした。

 エミーさんと側近の部下二人以外には、館の外で待っていてもらった。ただ待ってもらっておくのも失礼だったので、ラインさんには国家騎士団の方々にお茶を出してもらうことにしたのだ。

 本当はアリスかカグヤにお願いしても良かったのだが、あの状態の二人を国家騎士団の側に置いておくのは危ない気がしたしね。

 ラインさんに頭を上げさせられていると、他の人たちはぞろぞろと農作業に戻っていった。

 俺はそんな他の人たちを見て、自分も何か手伝おうと腕まくりをする。

「じゃあ、農作業の方でも手伝うかな。営業に行く予定もなくなったし!」

「いえ、メビウス殿! こっちは我々にお任せください! メビウス様はメビウス様にしかできないことを!」

 すると、俺の申し出はラインさんに軽く断られてしまった。

 そのまま小走りで俺のもとを去ってしまったラインさんを見ながら、俺はふむと考える。

「俺にしかできないことか……」

 俺はそんなことを考えながら、辺りを見渡す。

『家電量販店』の前には簡易型の住居と広大な畑が広がっていた。結構大きな村っぽくはなってはきたが、今まで見てきた領地経営物と比べてたりない物があった。

「やっぱり、城壁は作らないとなのかなぁ」

 今回の一件も城壁とかがあれば、ラインさんたちを余計に驚かせないで済んだかもしれない。

 ……さすがに、いきなり自分たちの畑近くに国家騎士団が来たらビビるよなぁ。

 それを防ぐためとか、今後の魔物の襲来を防ぐためにも城壁は必要になってくると思う。

 でも、さすがに『家電量販店』ある物を使って城壁を造るのは難しいと思う。それに、ドワーフ族みたいな職人さんもいない。

 こういうときに、ドワーフの仲間とかがいれば助かるんだけどなぁ。というか、どのみち生産性のスキルでもない限り、すぐに城壁を造ることなんかできるわけがない。

 今はできないことを嘆いても仕方がないし、ある物を使って最低限設備を整えるくらいだろう。

「とりあえず、突然過ぎる来訪者に気づけて、魔物を返り討ちにすればいいわけだから……うん。それくらいなら、『家電量販店』にある物で何とかなるかな」

「旦那様、お掃除ロボットを配置するんですか?」

「それもしないとだけど、カメラも配置しないとなんだよね」

 俺は後ろから抱きついてきたアリスにそう答えて、申し越し考える。

『家電量販店』にカメラがあるのは確認済みだ。でも、監視カメラをつけるにしても、取り付け型が多い気がする。土地つけタイプじゃないカメラじゃないと、見回りには向いていないと思う。

 そうなると、以前に『家電量販店』で見つけたあのタイプのがいいだろうなぁ。

「少し『家電量販店』に戻ろうか。ちょっと、探したいタイプのカメラがあってね」

 俺はアリスとすぐ隣にいたカグヤにそう言って、ラインさんたちを残して一度『家電量販店』へと戻ることにした。



「なるほどね。ペットを見守るタイプのカメラか~。さすが、ご主人様!」

カグヤはそう言うと、膝に手を置いてペット用の監視カメラを見ている俺の顔を覗き込んできた。

「っ」

カグヤの胸元が微かに緩んでいるのに俺が気づくと、なぜかカグヤの息遣いが荒くなった気がした。

俺は見過ぎていたことに気づいて、慌てて視線を逸らす。

『家電量販店』に戻った俺たちが来たのは、ペットの見守りなどで用いられる監視カメラが置かれている場所だった。

「旦那様。多分、このタイプのカメラはここにしかないですね……旦那様?」

 すると、別の売り場を確認していたアリスが俺たちの元に戻ってきた。

 アリスは俺たちのことを見て何かを感じ取ったのか、ハイライトが薄まった目で俺を見ていた。

「あ、アリス、ありがとうね。じゃあ、一番性能がよさそうなこれを仕様変更しようかな!」

 俺は慌ててアリスの気を逸らすために、いつもよりも声量を上げる。

 さすがに、主人がメイドの胸ちらを見ていたということを知ったら、幻滅されかねないしね。

 俺がペット監視用のカメラを軽く撫でると、他の家電と同じようなウインドウが表示された。

『仕様変更しますか? Yes/No』

 俺はそのウインドウを前にして、ふむと仕様変更の内容を考える。

 他の家電たちと同じように電気がなくても動くのは当然として、撮影範囲と距離を通常の場合と比べて可能な限り広く長く設定できるようにしよう。

「ん? というか、どんな原理で今まで監視カメラの映像が急に液晶に流れてきてたんだろ?」

「あっ、それは、私が監視室で画面を切り替えてたの。だから、国家騎士団たちが来たときは、私が監視室にいなかったか、監視カメラの映像を液晶に映し出せなかったんだよね」

「なるほど。そういう感じだったんだ」

 俺はカグヤの言葉を聞いて、また少しだけ仕様変更の内容を考える。

ペット監視用のカメラが入っている箱をよく見てみると、それらのカメラがアプリを使うことでスマホからその映像を見れるものだということが書いてあった。

他には、その映像を複数同時にスマホに表示で切ること、異常音を検知できることと、スマホ越しに通話ができること、録画機能などがあることなどが書いてあった。

これだけの性能があるのなら、一個ずつ元の性能を伸ばせばいいかな。

普段はお掃除ロボットの上に乗せて移動をさせて、お掃除ロボットが魔物や敵を感知したときに出る音を拾ったら、カメラの映像が映るようにする。その音を検知した複数台のカメラの映像がスマホかタブレットにその映像を流すようにする。

危険だと思ったら、スマホ化タブレット越しにお掃除ロボットに排除の命令すればいいわけだ。

「うん。大体そんな感じかな」

 俺はそれらの必要そうな内容を頭に思い浮かべながら、『Yes』の部分をタップした。

 すると、他の家電の時と同じようにペット用の監視カメラが光り、ぼふっと白い煙を吐いた。

 少し離れて煙が収まったのを待ってから、俺はカグヤが持っているタブレットを少し借りて、アプリをダウンロードして起動してみた。

 そして、俺はスイッチを入れてカメラに向かって手を振ってみるが、タブレットの画面は何も映らない。

 その後、お掃除ロボットを持ってきて、お掃除ロボットのぴこんっと言う音を聞かせると、ぱっとカグヤから借りたタブレットに俺が映った。

 よっし。成功みたいだな。

 俺がそれらの説明をアリスとカグヤに言うと、カグヤがぱぁっと顔を明るくさせた。

「ね、ねぇ、ご主人様。これ今は私のタブレットにしか映らないんだよね?」

「え、うん。そうだけど」

「じゃあさ、これは私に任せて欲しいな。カメラの配置場所とか含めて! 私、機械とかそういうの得意だから!」

 カグヤはそう言うと、ずいっと体を近づけてきた。テンションが上がっている勢いに押されて、俺は少し気圧される。

 なんでこんなに前向きなのだろうと思いながら、今までは監視カメラの映像とかは監視室にいたカグヤに任せてきた。そのことを考えると、俺がやるよりもカグヤの方が適任なのかもしれない。

 俺はそう考えてこくんと頷く。

「そういうことなら、任せようかな」

 カグヤは俺の方を肩にポンっと優しく叩くとそう言って、ウインクを一つした。

「ありがとうね、ご主人様! でも、一人でずっとだと不安だから、たまに一緒に確認して欲しいかな」

「もちろん。そのくらいのことなら、喜んで協力するよ」

「上手く使えば、私の恥ずかしい映像をご主人様に見せることも……」

 すると、なぜかカグヤの息遣いが微かに荒くなったような気がした。

 気のせい、だよな?

カグヤはよほど楽しみなのか。俺が仕様変更を済ませたお掃除ロボットとペット監視用のカメラを持ってどこかに行ってしまった。

 あれだけやる気に見ていいるのなら、丸任せしても問題ないだろう。

 問題、ないよな?