「おお、これがメビウス様がおっしゃっていた保存庫ですか」
俺たちは手分けをして、仕様変更をした冷蔵庫に次々に野菜を入れていった。籠いっぱいになっている野菜を入れても未だに余裕がある冷蔵庫を見て、ラインさんたちは野菜が入っていく様子を見て目を丸くしていた。
今回仕様変更した冷蔵庫には、大容量であることと野菜の鮮度を保つことの二点のみに特化させた。
『家電量販店』にある色んなものを仕様変更して気づいたが、仕様変更をするときの機能を少なくすれば少なくするほど、よりその機能を強くするみたいだった。
だから、もともと大容量と野菜の鮮度を保つ冷蔵庫を使って、さらにその二点を強めることに成功できたのだと思う。
というか、いったいどれほど多くはいるんだろう。いく収納してもまだまだ空きがある。
「旦那様。この冷蔵庫は旦那様のランドセルみたいな感じなのですか?」
「ランドセルよりも保存に適した感じかな。大きさとかは同じ感じだと思うよ」
俺は後ろから俺に抱きつく姿勢で冷蔵庫を見ていたアリスに答える。
多分、感覚的にはランドセルが持ち運び用のアイテムボックスで、冷蔵庫が据え置き型のアイテムボックスみたいな感じだ。
元々の容量の違いを考えれば、そんな感じかなと思う。
「ご主人様―、これでもう野菜は全部入れ終えたってー!」
「マジか。まさか、あれだけあった野菜がすべては入ったのか……」
俺は家具屋の言葉を聞いて、少しの間言葉を失ってしまった。
無駄に『死地』が広かったことと、土とか肥料が無料だったこともあり、調子に乗って随分と大きな畑を作った。
当然、その畑の収穫量というのも馬鹿みたいに多い。
それがあの冷蔵庫一つに全て入ってしまうとは思いもしなかった。
「では、メビウス様。また何かありましたら、お声がけください!」
「あっ、ラインさん。この後少しいいですか?」
俺は一仕事終えてそう言ってきたラインさんを呼び止めた。すると、ラインさんは嫌な顔一つすることなく小さくガッツポーズをする。
「ええ、もちろんです! 今度は何をすればいいでしょうか?」
「えっとですね。明日からしばらくの間、留守をお願いしたいんです」
俺がそう言うと、ラインさんは少し間があってから表情を硬くさせた。
「留守をですか? え、メビウス様たちはどちらに行かれるんです?」
「野菜の販売ルートの確立させるために、ちょっと営業に行ってきます」
野菜を収穫できたのなら、その販売ルートを確立させなければならない。
俺たちはラインさんたちが農作業をしているうちに、アリスとカグヤに意見出してもらいながら、今後の方針を決めていた。
まず初めにすべきは、収穫した野菜の販売ルートを確立させること。
野菜を収穫しても、それらを販売することができなければ意味がない。
まずは近くにあるグラン大国のレスタンス領あたりに営業をかけてみるつもりだ。あそこは、商人の街で有名だから、『死地』で取れた野菜も悪くない値段で買い取ってもらえると思う。
徐々に『死地』でも野菜が取れるという認識から、そこに小さな国があるということを知ってもらう感じがいいだろうな。
「そう言うことでしたら、お任せください! 命に代えてでもこの館と仲間たちをお守りいたします!」
「い、いえ、命が危ないと思ったら、全然逃げてもらって平気なので!」
俺は襲ってきた魔物を想定して闘志を燃やすラインさんを見て、慌てて手を横に振った。
さすがに、仕様変更をしたお掃除ロボットを何個か置いていくつもりだし、ラインさんたちが危険な目に遭うことはないとは思う。
念のために、仕様変更をしたエアガンとかも置いていった方がいいかな?
俺がそう考えていると、突然ドタドタッと足音が聞こえてきた。
何だろうかと思って振り向くと、そこにはラインさんの仲間の女性の姿があった。
「モモイ。突然メビウス様の館に入ってくるなんて失礼だろ」
「す、すみません、メビウス様。でも、緊急事態でして」
ラインさんに指摘されたモモイという女性は肩で息をしながら、ペコっと俺に頭を下げてきた。
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、緊急事態って言うのは?」
息を乱しているモモイさんの様子が気になって聞くと、モモイさんは勢いよく顔を上げて続ける。
「グラン大国から、国家騎士団だっていう人たちが来ました!」
「え……」
俺は思ってもいなかった言葉を受けて、固まってしまった。
なんで急に国家騎士団が『死地』なんかにやってきたんだ?
「旦那様、ご安心を。このくらいの数でしたら、私が蹴散らします」
「ご主人様、明日置いていくはずだったお掃除ロボット全部貸してー。私が操縦して一気に殲滅するから」
俺がやけに冷たい声色に驚いて振り向くと、そこにはデッキブラシを振り回しているアリスと、タブレットを片手で持って素早く操作しているカグヤの姿があった。
まさかとは思うけど、カグヤも戦える系のメイドなのか……。
俺は以前魔物と戦った時のアリスの強さを思い出して、慌てて二人を落ち着かせる。
「ま、まって、二人とも! 別に相手も戦争をしようと思ってきてないんだろうからさ!」
なぜグラン大国の国家騎士団がやってきたのかは分からないが、別に戦うつもりはないのだおる。
初めから戦うつもりだったら、何もご丁寧に俺たちが出てくるまで待ったりはしないはずだ。
というか、これってむしろチャンスなのでは?
どのみち、ここで国を建てるのなら後ろ盾になる国は必要だった。どうやって接触を図るかと考えていた所に、国からの使いのような者が来てくれたのだ。
この機会を逃すわけにいかない。
俺はそう考えて、気を引き締めて一階の入口へと向かったのだった。



