「うん、種類は少ないけど耕運機はあるんだな」
俺たちは監視室から移動した俺たちは、ちょっとした特設コーナーに来ていた。
『家電量販店』の隅の方には、特設コーナーのような物があり、そこには数種類だけ耕運機が並べられていた。
俺はそれらの耕運機を見てほぅと小さく声を漏らす。
異世界で農業をやるというのは定番ではあるが、正直な所大規模な農園を作るのなら機械の力は絶対に必要だ。
多分、少しでも農業を齧ったことのある人なら共感してくれると思う。小規模な畑だとしても、土おこしの時点で汗だくになってしまうものだ。
まぁ、今回の場合は土を購入してくるわけだから、耕す工程から入れるわけだし楽だろうな。
さすがに、トラクターみたいな耕運機はないみたいで、手で押すタイプのしかないが十分だろう。
それに、俺には仕様変更があるわけだしな。
「せっかくなら、一番でかいこいつがいいかな」
俺はいくつかある耕運機の中から、一番大きなものを選んでそっと撫でてみた。
すると、他の家電の時と同じように仕様変更時に出るウインドウが現れた。
『仕様変更しますか? Yes/No』
俺はどんなふうに仕様変更をしようか考える。
やっぱり、一番期待したいのは馬力の強さだよなぁ。トラクターの耕運機みたいに、乗ってるだけで大量に耕してくれるくらい、持っているだけで大量に耕してくれる感じがいい。
俺はそんなことを考えながら、仕様変更の画面の『Yes』の部分をタップした。すると、今までの家具たちと同じように耕運機が光って、ぼふっと白い煙を放った。
そして、その煙が晴れたさきに仕様変更後の耕運機があった。
「特に見た目は変わってないな。まぁ、それでも失敗したって感じはないし問題ないか」
俺はそう考えて、次々とそこにある耕運機を仕様変更していった。とりあえず、特設コーナーにあった五台の耕運機に仕様変更をかけ終えたので、俺はアリスとカグヤと手分けをしながら耕運機を一階の入り口付近に移動させたのだった。
「メビウス様! お呼びでしょうか!」
そして、俺は『家電量販店』の出入り口付近にラインさんたちを集めた。
ラインさんはピシッと小さな敬礼をして、まっすぐに俺のことを見つめている。ラインさんの仲間たちも同じような視線を俺に向けている。
俺はみんなの支援を受けながら、小さく咳ばらいをして続ける。
「はい。昨日話した通り、皆さんには今日から働いてもらえ追うと思うんですけど、大丈夫ですか?」
「もちろんです! みなそのつもりでしたので!」
ラインさんの言葉を聞いて、ラインさんの仲間たちも大きく頷く。
どうやら、皆やる気満々らしい。
俺はそんな人たちの反応を前に口角を上げて、自動ドアの前に立つ。すると、自動ドアが開かれてそこに積まれている土と肥料、耕運機などがラインさんたちの前に現れた。
「こ、これは……」
「とりあえず、皆さんには農業をして貰います。土と肥料、便利な道具はこちらで用意してきたので。確か、隣国でも畑ができるように種は荷物に積んできたんですよね?」
俺が聞くと、ラインさんはコクコクと頷く。
正直な所、野菜の種も『家電量販店』にあるパソコンで発注してしまおうかとも考えた。
しかし、日本にあった野菜がこの世界でも無事育つのかどうか見当がつかない。それに、見たことのない野菜よりも、この世界で知られている野菜の方が流通を考えたときに捌きやすい気がする。
『死地』で取れた見たことのない野菜って、なんか怖いしな。仮に、日本にあった野菜を作るとしても、ある程度『死地』で作った野菜が美味しいとうイメージが定着してからの方がいいだろう。
すると、ラインさんたちは土や肥料などを見て、目をぱちくりとさせていた。
「土が袋の入っているぞ。随分と良さげな土だな」
「あの後ろにある機械はなんだ? 歯車みたいなのがついてるぞ」
「『死地』で畑? 畑を『死地』で?」
どうやら、まだここで野菜を作ろうとしているのが信じられていないらしい。まぁ、隣国が開発を諦めるほどの場所だから、そんな反応になるのも当然かもしれない。
俺はそう考えて、積まれている土や肥料を優しく撫でる。
「これらの土とかは『死地』の環境に合うように調整してあるので、多分野菜も上手く育つと思います。ここの財源になるかどうかはまだ分かりませんが、皆さんで挑戦してみましょう」
俺がそう言うと、少しの間があってからラインさんたちは拳を強く握って、その拳を力強く上に掲げた。
「そうだよな。メビウス様が言うらいだから、何か考えがあるはずだ!」
「まさか、また農家をやれることになるとは! やらせていただきますよ!」
「メビウス様! 農業のことなら我らにお任せください!」
そして、それからラインさんたちは各々そんな声を上げた。どうやら、やる気は十分みたいだ。
「それじゃあ、始めましょうか。異世界での農業を」
こうして、俺たちは財源の確保のために農業に取り掛かることになったのだった。



