「えっと、アリスはこのペッハー君が何者か知ってる?」

「い、いいえ。私は初めて見ました」

 もしかして、ペッハー君同士繋がりがあるのかと思って、念のために確認をしてみたがアリスは顔をフルフルと横に振っていた。

 まぁ、さっき俺と一緒にペッハー君を見たときの表情から考えると、アリスが知ってるわけがないか。

 俺がそう考えていると、ペッハー君が片手を上げて続ける。

「ソレモソノハズデス。イチゴウハオモテ、ワタシハウラデ、ゴシュジンサマヲ、ササエルカンジナノデ!」

「一号? 一号って……もしかして、アリスのことを言っているのか?」

「アリス? イチゴウニハ、ベツノナマエガアルノデスカ?」

 ペッハー君がこてんと首を傾げてアリスを見ると、アリスはふふんっと得意げに胸を張る。

「そうなんです。旦那様につけてもらっちゃいました!」

「ゴシュジンサマニ……」

 ペッハー君はアリスの言葉を聞いてから、ちらっと俺の方を見つめてきた。

 なんだろう。昔飼っていた犬の寂しそうな目と凄くに似ている気がする。

俺はそんなペッハー君からの視線に耐えかねて、静かに頬をかく。

「えっと、君も名前を付けて欲しいの?」

「イエ、ソウデハナイデス。タダ、レンバンノイミガ、ナクナッタナト」

 ペッハー君は俺から視線を逸らしてそう言った後、また俺の方をちらっと見てきた。

 ……なるほど。まさか、ここまで分かりやすいとはな。

 俺は小さく笑ってから続ける。

「そう言うことなら、新しくつけようか。ついでに、アリスみたいに仕様変更もしようよ」

 連番だということは、本来は二人とも同列の立場なのかもしれない。それなのに、片方が仕様変更をしたのに、もう片方だけは素の状態のままというのもよくないだろう。

 俺がそう言うと、ペッハー君は何も言わずに胸の液晶を俺の方に向けた。すると、アリスの時と同じような仕様変更のウインドウが表示された。

『仕様変更しますか? Yes/No』

「これに触れればいいんだよね。えっと、どんな感じがいいかな……」

 確か、アリスのときはアリスが『茶髪のツインテールのドジっ子メイド』だったらと思いながら、仕様変更の画面に触れた気がする。

 そうなると、そんな感じで理想のメイドさんを思い浮かべた方がいいだろう。

 理想……オタクの、理想。

「『オタクに優しい明るいギャル系メイド』、とか?」

 もちろん、あくまでギャル系というのは属性だけで、コミュニケーション能力が高いただの良い子みたいな感じがいいな。

 本当のギャルは高圧的な感じがあって怖いし、あくまで二次元の中の優しい女の子がいい。

 というか、思わずぽろっと素直なことを口にしちゃうくらい、正直な子がいいな。

 俺がそんなことを考えながら『Yes』をタップすると、ペッハー君の体が光り輝いた。そして、それと一緒に白い煙がぼふっと上がる。

 すると、その煙が消える前に追加でウインドウが現れた。

『性格不一致のため、言動に修正あり』

「ん? なんだこのテキストは?」

 以前アリスの時には表示されなかったウインドウを前に、俺は首を傾げる。

 言動に修正? 一体どういうことだろうか?

 俺がむむっと考えていると、薄くなった煙の中からヌッと手が伸びてきた。そして、その手はそのまま俺に向かってくる。

「え、なんでこっちに向かって――うわっ!」

 すると、突然伸びてきた手に俺は強く体を引かれた。そして、煙が晴れたと同時に一瞬仕様変更をした後のペッハー君の姿が見えた。

 サイドテールで高い位置で結ばれた明るい色の髪。ぱっちりとした二重瞼と、上げた口角が良く似合うような女の子。

 メイド服がはち切れるんじゃないかと思わせるほど主張が激しい胸部が特徴的で、自然とそちらに引き込まれる。

 ん? いや、引き込まれているというか、引っ張られているのか。

 それに気づいた時にはすでに遅く、俺はたわわな胸部に顔からダイブしてしまっていた。

「わぷっ」

「ご主人様ぁ! ありがとうね!」

 そして、俺はそのまま腕を背中に回されてしまい、強く抱きしめられてしまった。

「……ふえっ」

 その直後、俺を抱きしめている女の子から不意に漏れたような声が聞こえてきた。

 胸部に押し付けられながらなんとか顔を上げて見ると、俺に抱きついている女の子は顔を真っ赤にしながら俺のこと見ていた。

「ご主人様、違うんです。いや、違くはないなくてっ、そのっ」

 それから、俺を抱きしめている女の子は恥ずかしかったのか、涙を潤ませていた。

 なぜ自分で俺を抱きしめておいて、恥ずかしそうに震えているんだ?

 俺はそこでふとさっきのウインドウを思い出した。

『性格不一致のため、言動に修正あり』

 ……もしかして、これがあのテキストの影響?