「ふぅ、やっと着いた」

 俺たちは数日間『死地』を歩いて、無事『家電量販店』に到着していた。

 俺は久しぶりに見る『家電量販店』の姿を見て、その存在がかなり浮いていることを再確認した。

 やっぱり、建物自体が異世界らしくないんだよなぁ。多分、造りもごりごりの鉄骨コンクリートだろうし。

 草木も何もない場所にそびえ立つ七階建ての建物は蜃気楼のようなものにしか見えない。……ラインさん、よく見たこともないこんな建物に近づこうと思ったな。

 いや、そんな建物にでも助けを止めないと助からないくらい、追い詰められていたのだろう。

「これが、メビウス様の館」

 そして、ラインさんの仲間たちは、初めて見る俺の『家電量販店』を前にしばらく固まってしまっていた。

 俺はそんなラインさんの仲間たちを見ながら、ふむと考える。

「とりあえず、皆さん疲れているでしょうから中に入ってください。住居ができるまでは、『家電量販店』内で一緒に過ごしましょう」

 定住できるような住居をすぐに用意するのは難しい。それなら、一番住居っぽい『家電量販店』を上手く使うしかないよな。

 俺はそう考えて提案したのだが、ラインさんは慌てて手を横に振る。

「この中でですか? いやいや、私たちなんかが恐れ多いですよ!」

 ちらっと他の人たちを見ると、他の人たちも同様に何度も頷いていた。

 もしかしたら、俺が元貴族だということから気を遣っているのだろうか? いや、もう勘当されてしまったから、貴族でも何でもないんだけど。

 俺はどうしたものかと考えて続ける。

「そうは言っても、それだと皆さんずっとここで野営することになりますよ?」

「元々そのつもりですって! さすがに、食べ物をあれだけ恵んでもらって、住む所まで恵んでもらう訳には行きません! あっ、そうでした!」

 すると、ラインさんは思い出しようにハッとしてから、荷物の中から膨らんだ布袋を取り出した。

 俺が何だろうかと思っていると、ラインさんは俺にそれを手渡してきた。

「これはなんですか?」

「大変遅くなりましたが、せめてものお礼です! お受け取りください!」

「お礼?」

 俺がその布袋を開けると、そこには袋いっぱいに硬貨が詰められていた。

 銅貨や銀貨が多いが、数枚金貨も含まれている。ざっと、ここにいる人たちの十数日分の食費くらいだろうか?

 俺が布袋から顔を上げると、ラインさんは真剣な表情で続ける。

「足りないとは思いますが、みんなでかき集めたお金です! 足りない分はいつか必ずお支払いいたしますので!」

「いやいや、受け取れませんって!」

「いえ、受け取ってください。あんなに美味しい食事を頂いたのは久しぶりでした。その硬貨だけでは全然足りないと思いますが、どうかお納めください!」

 美味しい食事って……ただのレトルト食品だぞ、あれ。

 いや、確かに最近のレトルト食品って結構おいしいから、この国の平民の食事よりもおいしいのだろう。

 物によっては、結構味が濃いのもあるし、贅沢品とかに近いのかもしれない。

でも、さすがにお金をいただくわけに配下内だろう。そもそも、俺は『家電量販店』にお金を払っていないわけだし。

 そう考えてお金を返そうとしたのだが、ラインさんたちはまったく引こうとしなかった。

 しばらくの押し問答の後、俺はラインさんたちに無理やりお金を持たされてしまうことになったのだった。



「……このお金どうしようか」

「みなさん、中々折れてくれませんもんね」

 俺とアリスはラインさんたちを残して、『家電量販店』の1階フロアにあるフロアマップを見ていた。

 ラインさんたちは『家電量販店』に到着したばかりだというのに、さっそく野営の準備をてきぱきとこなしていた。

 どうやら、今日ようやく食べることのできるダークウルフとグレーウルフの肉を楽しみにしているらしく、夜までに準備を終わらせるぞとノリノリだった。

 俺たちはいても邪魔になりそうだったので、『家電量販店』でこれからラインさんたちに使ってもらえる家電を探すことにしたのだった。

「とりあえず、家電も気になるけど、一番初めに見るのは三階の寝具売り場だよな。あとは、水洗トイレとかか、風呂とかかな」

「そうですね。寝る場所と水場が整備されれば、外でも結構快適に過ごせると思いますよ」

 俺はアリスの言葉に頷いて、アリスと共にエスカレーターを乗って三階のフロアへと向かった。

 そして、その先で俺たちは思いもしなかった出会いを果たすのだった。



「フー。ハッチュウガナイノハイイケド、ダンナサマガイナイト、ヒマダナー」

「「……」」

 三階の寝具売り場に向かうと、俺がいつも寝ているベッドの上でペッハー君が横になっていた。

 俺は初めて見るベッドの上でくつろぐペッハー君を見て、言葉を失っていた。

 なんだ、このリラックスモードのペッハー君は。

 ちらっとアリスを見てみると、アリスも目の前で起きている事態に驚いているようだった。

 そうだよな。普通はこんなお家モードみたいなペッハー君いないもんな。

「アッ」

 俺が新たなペッハー君に視線を戻すと、ベッドの上で横になっているペッハー君と目が合ってしまった。

 それから、ペッハー君はワタワタとしてから体を起こすと、気まずそうに頬をかきながら続ける。

「ゴシュジンサマ、オカエリナサイマセ!」

「えっと、ただいま?」

 こうして、俺は初めて会うペッハー君に帰宅の挨拶をするのだった。

 ……いやいや、このペッハー君は誰だ?