男子寮地下室。

学生服を着た二人の男が暗闇の中、小声で話をしている。

「深、どうだ?」

「今のところ何も」

「そうか」

「でもわざわざあの図書館に毎晩行くなんて、不気味ですよ。
あそこは夜になると妖の溜まり場でしょう」

「そうだな。でも死人が見てきた妖だ。そいつらも死んだと同然で害はない」


(あやかし)
それは知る人ぞ知る不気味な怪物のことである。


「見た目は変わりませんけどね」

「いずれ消えるさ。そしたらまた新しいのが来るけど」


一人の人間につき一体の妖が憑いている。

人間の身体の10倍はあろうか巨大な黒い塊に靄がかかったような形態で、
赤く光る3つの瞳がその者を睨みつけ、飲み込もうとする。

そしてそれは不幸な者にほど見えてしまう。

妖は子どもの頃に見やすいものとされ、一度見てしまうと何度も何度も襲われる。
大人になるまで目にすることがなければ、その後一切見ずに生涯を終えるが、
見える者には他人の妖さえも見える。

つまり、妖を見る者、見ない者に、人は幼少期のうちにわけられてしまうのだ。

現在の研究でわかっているのはここまでだ。
妖を見る人の数、見える原因についてもまだ研究は進んでいない。


「なぜあそこにあんなに集まるんでしょうか」

「医学校だからな。授業で扱う遺体が多い場所だ。つまり死んだ人の見てきた妖がここには多いんだ」

「はあ…」

深は気味悪さにため息をついた。

「ははは、怖いか。じゃあお前が彼女を守ってやらないとな」

「わかってます。私の任務です」

「おお、やる気。彼女を好きになったんじゃ?」

「ないですよ。やめてください」

「まあよろしく頼むよ。友人の可愛い妹なんだ」


秘密結社カナリアの目的は人々を妖から守ること。

構成員がそれぞれ所持する妖専用の拳銃で、妖を撃退する。

これがこの医学校に水面下で蔓延るカナリアの正体だ。

幼少期に、黒い靄を見る側とされた者。
そしてそれを妖であると知る者たちの団体である。