「救えるかな。いつか、この街に帰ってきて」

手紙を読み終えて、楓子は胸がすくような気持ちでそう言った。

「私も一緒に帰ってきたいです」

深が楓子の頭に手を触れ、口づけを落とす。

「ちょっと!」

「お兄さんに撫でられてたでしょ」

「妬いたの?」

「あ、からかうの禁止ですよ」

「可愛い」

楓子が深の腕に自分の肩を寄せる。

「あんまりくっつかないでください、暑いから」

「照れないで」

今はただ、目の前にある可能な幸せに向き合おう。
向き合うしかない。

「今日は妹らしい楓子さんを見られて新鮮でした」

そっと繋いだ手を、風に当たらぬよう外套に隠す。

季節はもう移り変わっている。

軽やかな足取りに、繋がれた二人の手が揺れる。



《終》