楓子と深が帰る時間が近づいていた。

少年のことは、一郎が自分に任せてほしいと引き受けた。

「怖かったね。ごめん、お姉さん気づかなくて」

楓子が少年に声をかけると、少年は一郎の腕にしがみつき、何度も頷いた。

声は出せないが、楓子に何かを伝えようとしていることだけは、楓子にちゃんと伝わった。

「兄さんが責任を持って交番へ送り届けるよ。
気を付けて帰りなさい」

一郎は、子どもの頃のように楓子の頭をぽんと撫でた。

次はもっとゆっくり、泊まっていくと良い。

楓子と深を交互に見ながら、そう言って微笑んだ。