秘密結社の銃声は夢物語にならない

商店街に入り、店先には鮮やかな靴や傘、雑貨に菓子が並ぶ。

「幼い頃からかなり妖には悩まされた。
最近は殆どないが、数年前街を歩いていたら突然襲われた。

その時助けてくれたのが出口だ。

楓子も昔妖を見ていただろう。
最近は彼がいるから平気か?」

「うん。兄さん」

楓子が嘘をついていることを、深はわかっている。
彼女は、この優しい嘘だけは続けることにした。

それを深は、彼女の心の一番近くで見守ることにした。


「妹を守ってくれているお礼だ。
深君、何でも買ってやる」

「ええ?いいですよ」

「いいからいいから」

一郎が柄にもなくはしゃいでいる。

一郎は楓子に、実の弟や妹はいなかったと語ったが、元々兄貴肌なところがあるのだろう。
深の背中を押し、路面店へ入って行く一郎を楓子は微笑ましく眺めた。

「うわああああん」

そのとき、少し離れた場所から、子どもの泣き声が聞こえた。
気になった楓子が、路地裏を覗くと、みすぼらしい格好をした少年が一人突っ立って泣いている。

行き交う人々にもその声、姿は届いているはずだが、皆見ないふりをしていた。

楓子は思わず駆け寄り、少年に声をかける。

「どうしたの?お腹が空いた?
こんなところで泣いていたら危ないわ」

少年の膝小僧についた砂を手で払ってやる。
どんなに声をかけても、少年は泣き止まない。

「楓子さん!妖だ!」

「え?あっ」

深が銃を撃つ。

鈍い音がして、少年を抱きしめる腕に力が入った。

────気づかなかった。この少年は妖に襲われていたんだ。顔をよく見ればわかったはずだ。この子の出立ちで察せたはずだ。それなのに。


着物の内側に常備している拳銃がずしりと重く感じられた。