楓子の家の和菓子屋は、古い住宅街の中でひっそりと息を潜め建っていた。

「おんぼろでしょう。味は悪くないと思うんだけど、なかなか繁盛しないの」

────これは…。

話には聞いていたはずなのに、深は言葉が出なかった。

籐院医学校は、数ある医学校の中でも学習設備が整っており、寮の運営もあることから
通うのにかかる金額が非常に大きいことで全国的に有名である。

衝撃で動けない深の見たことのない表情に、楓子はあははと声を出して笑った。

「今、どうやってあの学校の授業料を払ってるんだと思ってる?
特待生よ」

「嘘でしょう?」

籐院医学校の特待生制度など、あってないようなものだ。

合格者は十年に一人。

あの難しい試験を通るような天才が自分の隣にいるなんて信じられるわけがない。
優秀なのは知っていたが、そこまでとは。

「本当。
医学校は女生徒を取った例がほぼないし、正直苦労した」

そう言って暖簾をくぐる楓子に置いていかれないようにすかさずついていく。

────私の知らない楓子さんがまだまだいるらしい。