兄に会いに行く日がやってきた。

楓子は寮の玄関で深を待ちながら、そこにある大きな鏡で身なりを整える。

後ろからひょいと顔を出す深が鏡に映り、頬が緩んだ。

「楓子さん、こっち向いてください」

楓子が振り返ると、深はその顔をじっと見つめ、
親指を楓子の唇になぞるように押し当てた。

「何?」

「紅花です。口紅ですよ。ほら」

深が鏡でその顔を楓子に見せる。

楓子の黒い髪と白い肌に、紅色がよく映えていた。

驚き嬉しそうに微笑む楓子を見て、深もまた彼女の美しさに笑った。