男子寮地下室。

ここは棟内からでは入ることのできない隠れた場所に存在する。
図書館と寮の間の中庭にある草むらをかき分けて、中腰の状態でしか扉を見つけることができない。

そこが秘密結社カナリアの拠点となっている。

「彼女は私たちカナリアの一員ですね。なぜ教えてくれなかったんですか。
しかも…彼女は見えない」

深は構成員すらその規模の大きさを知らないカナリアを牛耳る、代表の男を問い詰めている。

「ああ。いずれわかることだと思ったからな。すまない。
そして彼女をカナリアに誘ったのは俺だ」

カナリアの代表、兼籐院医学校生徒会会長の出口(でぐち)武次(たけじ)は全てを知った後輩に正直に答えた。

「見えないのに、なぜですか?」

「入学式の日、あいつの妹だとすぐにわかった。
和菓子屋にもよく行っていたから、顔見知りだったんだ。

一度、兄妹が一緒に妖に襲われるところを助けた。
あの時、楓子もひどく怯えていたから、見えていると思っていた」

念願の医学校に入学してきた楓子は他とは違う鋭い目つきをしていた。

“救いたい”という闘志に満ちていた。

武次はそんな楓子にすぐに声をかけた。
少し探りを入れたら妖についても詳しく調べていたし、カナリアに()れない理由はなかったのだ。

「まさか見えないとは、俺も後から知った」

「まさかって…見えない人の方が多いでしょう」

「見えない人は普通知らないだろう。俺たちの苦しみを。
まあそれも俺の偏見だったということだ。

見えないからこそ、真夜中の図書館の番を任せられる」

「あれは任務だったんですね」

「そうだ。見える者にあの死んだ妖たちの空気は耐えられないだろう」

月見楓子を妖から守れ。

深は任務を受けてから、楓子がいる真夜中の図書館へ初めて足を踏み入れた。
あの妙な妖の数の多さ、そしてそれを気にしない様子の楓子に驚いたことを覚えている。

死んだ妖から直接の害はないため、妖についてよく知る深でやっとなんとか耐えられるくらいだ。
何かの拍子に見える者があの図書館へ来てしまったら、きっと腰を抜かすに違いない。

その時のために、楓子のようなカナリアが必要になるのだ。