むかしむかし、あるところに一柱の狼がいました。
 神の国からやってきた狼は人間の娘に恋をします。娘は狼を好きになりました。
 狼と娘には男の子が生まれ、神狼の血筋には必ず男の子が生まれるようになります。
 神狼の子は、狼でもいいという番の娘を探します。番をみつけると、幸せに暮らすのでした。


「うー、いよいよだね白狼くん」
「今日から美桜先輩も白狼ですよ」
 花嫁控え室にやってきた巽に突っ込まれるが、美桜も突っ込み返す。
「美桜“先輩”じゃなくて美桜よ」
「はい! 美桜」
 初めて呼び捨てにされて破壊力に悶える。顔面力が強い上にイケてる声から発せられる名前の威力よ。
「巽くん、格好いい」
「美桜も綺麗だよ」
 見つめ合っていると、隣から笑い声がした。美佳だ。
「お熱いわね。キスはまだしちゃ駄目よ。口紅とれちゃうから」
 言われ、何となく身体を離す。
 今日は美桜と巽の結婚式だ。式を和風にするか洋風にするか揉めに揉め、結局結婚式を二回やることになった。今日は洋風のウェディングだ。
 エンパイアラインのドレスに身を包んだ美桜は、プロのメイクさんに化粧をしてもらってご満悦である。
 巽は白のタキシードが様になっていた。顔がいいのでイケメン度が上がっている。
「誓いの言葉は取っておきますが、必ず幸せにします」
 蕩けそうな瞳で巽は言った。
「一緒に幸せになりましょう」
 美桜も笑顔で返す。
 キスの代わりに小指を絡めて約束とした。

 今代の狼も素敵な番に出会えましたとさ。