あれから、梅中の気配を感じたことはない。

 思うに、梅中にとって私は「下の下」の存在だったのではないだろうか。プライドの高い梅中は「自分の優越感を脅かすような女性」が苦手で、私なら自分の言うことを聞かせられるし常に自分が優位に立っていられると思ったのかもしれない。

 実際、私は全く秀でたところのない田舎者の世間知らずだったし、今も大して変わらない。学生時代の私は、ぱっと見では、とても梅中に釣り合うような女ではなかった。

 そんな女が、よりによって自分より遥かに下で自分のために財布を開くべき女が、自分を憐れんでいると分かったのだ。梅中には、耐えられない屈辱だったのだろう。

 私が受賞した時には、自分の優越感を脅かす位置へと動いたのかもしれない。それは、許せないことだったのだ。たとえ、自分が死んでいたとしても。

 梅中のようなタイプは、きっと私以外にも多くの人を恨んでいたはずだ。自分の恨みに足を取られて、成仏できずにいたのだろう。


 「あれから気配を感じたことがない」と言えば、先生もそうだ。

 あれ以来、夢に出てこなくなったのだ。これまで何かと教えてくれた人だし、あのとき私に危害を加えようとした梅中から助けてくれたのだと信じている。

 でも時々、あの声と表情を思い出すと、その思いが揺らぐのだ。

――あれは私が呑みました。

 もしかしたら私は、梅中に救われたのではないだろうか、と。



                        (終)