「え? で、でも。それって、妙花が納得しないとダメって──」
「いいよ」
両手を振りあたしが遠慮したのなんて意味がないくらい、向かいの妙花がこっちをじーっと見たまま、小さく頷く。
あっさりそう言われると、断りにくいんですけど……。
引きつったあたしの笑顔なんて関係なしに、スマホをテーブルに置いた宇多ちゃんが感心した顔で結菜を見る。
「それいいじゃーん! 美桜っちの奥手っぷりじゃー、卒業しても進展なさそうだしー」
「そ、そんな事ありませんー」
「あのねー。そう断言できる子はー、十五年もあればとっくに答え出せてるわけ。わかる?」
口を尖らせ抵抗したあたしに、スマホをテーブルに置いた宇多ちゃんが、ずいっと前のめりになり、指差ししながらあたしを咎める。
でも、言われた事が正論過ぎて、あたしはそれ以上反論できなかった。
ただ、妙花の占いって当たり過ぎるから、ちょっと怖いんだよね……。
実は妙花、代々占い師の家系らしいんだけど、彼女はその中でもずば抜けて霊感──確か、スピリチュアルだっけ? それが強いんだって。
実際、あたしと友達になってから、一番最初に占ってもらったのは、ここ二週間のハル君と帰れる日。
これがドンピシャなだけだったら、驚きはするけど、あたしだってここまで怖くならない。
実際何がヤバかったかっていうと、一緒に帰れない日の理由まで当たってた事。
クラスメイトに遊びに誘われた、なんてありきたりな話だったら、当てずっぽうかもって思うじゃん?
でも、一人で買いたい物があるから、なんて理由まで当てられた時は、流石にちょっと変な声出ちゃって、ハル君に怪訝な顔されたっけ。
「でも、何を占おっか? あんまりアオハル感なくなっちゃうのは避けるとしてー」
ほっぺに指を当てながら、首を傾げる結菜。
と、彼女の向かいで足を組んでいた宇多ちゃんが、ぽんっと手を叩く。
「ルールは崩したくないじゃん? だからー、二人が偶然出会える場所と時間なんか良くなーい?」
「あ、それ良いかも。折角だし、二人が話したり、一緒にいられるシチュが良いよねー」
「そうそう! そういうのないと、やっぱアオハルじゃないっしょ!」
ルールを崩さない、かぁ。
そこを崩してくれたら、あたしはめっちゃ助かるんだけど。
二人が得意げな顔をしてるけど、あたしは内心そんな事を思ってた。
みんなが決めているルールっていうのは、何を占わないかって事。
まず、ハル君の気持ち。
これがわかっちゃうと流石につまらないって事で、最初にこれは満場一致で決まった。
それから、あたしが何をしたらハル君の心を掴めるか。
そういうのは自力でどうにかしてほしいって思ってるみたいで、流石に占わないって言われたの。
正直な所、ハル君の気持ちを占わないって話は、本気で助かったなぁって思ってる。
あたしを好きじゃないだけじゃなく、別の人を好きだなんて知ったら、あたしはまず立ち直れないし。
でも、ハル君の心の掴み方は、正直占って欲しかった。
喉から手が出るくらいほしい情報だし、別にアオハルなんて、付き合ってからだって感じられるじゃん。
今のじれじれした恋心のままいる方が、ずっと辛いだけし……その、付き合えるなら、やっぱ早いほうがいいし……。
「じゃ、占うね」
考えこんでいるあたしの返事も待たずに、妙花が学生カバンから手のひらサイズの小さくて綺麗な水晶玉と下に敷くクッションを取り出し、テーブルの上に配置していく。
これを見るのは二度目。
凄く透き通った水晶玉は、小さいながら目を奪われるくらい綺麗。
何時見てもお高そう……なんて思っていると、妙花が目を閉じ、水晶に手をかざす。
なんか占い師って、こういう時何か言ったり、手を動かしてみたりとかするのかなって思ったけど、妙花は無言のまま微動だにしない。
見慣れているのか。結菜と宇多ちゃんは期待の眼差しでじーっと見てる。
でも、あたしは妙花の無表情さもあって、占ってる時の彼女にちょっと不気味さを感じちゃうんだよね……。
恋路を占ってもらってるはずなのに、全然関係ない事を考えながら妙花を見守っていると、しばらくして彼女がゆっくりと目を開いた。
「終わった?」
「うん」
結菜の言葉に頷いた妙花が、じっとあたしの目を見つめてくる。
「今日の帰り。本屋に寄って」
「え?」
本屋?
何で本屋……って、そこにハル君がいるからって事だよね。
でも、そもそもハル君って、そんなに本読んだりしないけど、それなのに本屋にいるの?
それに、今日この後?
あたしの頭には、正直ハテナが浮かびまくってるけど、一旦それは忘れなきゃ。
そんな事より、今は妙花にもっと大事な事を聞かないと。
「本屋って、何処の?」
そう。どのお店か知らないと、ハル君に会えないかも知れないじゃん。
迷わずそう尋ねたあたし。だけど、妙花は真顔で衝撃的な事を言ってきた。
「わかんない」
「わ、わからない? 占いでお店の名前とか見えなかったの?」
「うん」
相変わらずの真顔。
妙花ってどこか竹を割ったかのような性格をしてて、こういう風に言い切られると、だいたいそれ以上の話に繋がらない。
っていうか。店がわからなかったら、すれ違って終わっちゃうじゃん。
「妙っちが占ったんだしー。流石に美桜っちが知らないお店はありえなくなーい?」
宇多ちゃんがそう言ってきたけど、確かにあたしが知らない本屋に行って、ハル君に会うなんていう奇跡、早々起こらないと思う。
じゃないと、占い外れちゃうし。
「うーん……」
本屋……本屋……。
顎に手をやり首を傾げながら、心当たりがある本屋を思い浮かべてみる。
確かこっちの駅だと、すぐそこのショッピングモールに、一軒大きな本屋があったような気がする。
あとは家の最寄り駅の駅前に小さな本屋があるのと、家の近所の商店街にも一軒あったかな。
でも、こっちの本屋だったらすぐ寄れるけど、もし最寄り駅の方だったらまだ一時間も掛かる。
今は夕方五時。
ハル君は今日一人で帰ってったし、用事もないのに寄り道なんてあまりしないって考えたら、こっちの本屋かな?
でも、学校帰りに本屋で三十分以上もいる?
ハル君ってマンガは読んでそうだけど、そこまで本の虫って感じはないし。
だいたい買い物なら、探す物を見つけたら、すぐ店を出ちゃいそうだけど……。
「まずは、美桜ちゃんが足を運びたいって思う、本屋にでも行ってみたら?」
「うーん。そうだねー。考えても埒があかないし。そうしてみる」
結菜の言う通り。考えても仕方ないし、帰りに家の近所の本屋にでも寄ってみよう。
そう割り切ったあたしに、妙花がぼそっとこう言った。
「ちゃんと、結果出してね」
「へ? け、結果って……こ、告白しろってこと!?」
いきなりの要望に、あたしは思わず目を丸くすると、慌てて両手を振った。
「無理無理無理無理! まだ心構えだってできてないし、本屋で告白なんて──」
「そこまでは言ってない」
あたしの動揺に、さらっと釘を差す妙花。
それを見た結菜が、「そういうことかー」なんて納得してるけど、どういう事?
「え、えっと。じゃあ、どうしろっていうの?」
「この先に繋がるような結果を出そうって事だよね? 妙ちゃん」
「うん」
結菜の言葉に、妙花が迷いなく頷く。
「結果? 結果って……」
「決まってるじゃーん。例えばー、一緒にデートする約束取り付けるとかー。ゴールデンウィークに家に上がらせてもらうとか。妙っちだってー、そういうアオハルな話、期待してるっしょ?」
「うん。だから占ったし」
にこにこの宇多ちゃんに、まるで正論と言わんばかりに妙花が真顔で頷いてる。
いや、だから占ったって……。
勝手にしたくせに……なんて愚痴るのは、流石によくないよね。
結果。結果かぁ……。
確かにあたしが一番欲しいのも、そういう少しずつ前に向かうための結果。
だけど、そう簡単に言われても困るんですけど……。
あたしは眉間に皺を寄せながら、ジュースの入ったカップを手にすると、困惑する気持ちをストローから入るジュースと一緒に飲み干したの。
「いいよ」
両手を振りあたしが遠慮したのなんて意味がないくらい、向かいの妙花がこっちをじーっと見たまま、小さく頷く。
あっさりそう言われると、断りにくいんですけど……。
引きつったあたしの笑顔なんて関係なしに、スマホをテーブルに置いた宇多ちゃんが感心した顔で結菜を見る。
「それいいじゃーん! 美桜っちの奥手っぷりじゃー、卒業しても進展なさそうだしー」
「そ、そんな事ありませんー」
「あのねー。そう断言できる子はー、十五年もあればとっくに答え出せてるわけ。わかる?」
口を尖らせ抵抗したあたしに、スマホをテーブルに置いた宇多ちゃんが、ずいっと前のめりになり、指差ししながらあたしを咎める。
でも、言われた事が正論過ぎて、あたしはそれ以上反論できなかった。
ただ、妙花の占いって当たり過ぎるから、ちょっと怖いんだよね……。
実は妙花、代々占い師の家系らしいんだけど、彼女はその中でもずば抜けて霊感──確か、スピリチュアルだっけ? それが強いんだって。
実際、あたしと友達になってから、一番最初に占ってもらったのは、ここ二週間のハル君と帰れる日。
これがドンピシャなだけだったら、驚きはするけど、あたしだってここまで怖くならない。
実際何がヤバかったかっていうと、一緒に帰れない日の理由まで当たってた事。
クラスメイトに遊びに誘われた、なんてありきたりな話だったら、当てずっぽうかもって思うじゃん?
でも、一人で買いたい物があるから、なんて理由まで当てられた時は、流石にちょっと変な声出ちゃって、ハル君に怪訝な顔されたっけ。
「でも、何を占おっか? あんまりアオハル感なくなっちゃうのは避けるとしてー」
ほっぺに指を当てながら、首を傾げる結菜。
と、彼女の向かいで足を組んでいた宇多ちゃんが、ぽんっと手を叩く。
「ルールは崩したくないじゃん? だからー、二人が偶然出会える場所と時間なんか良くなーい?」
「あ、それ良いかも。折角だし、二人が話したり、一緒にいられるシチュが良いよねー」
「そうそう! そういうのないと、やっぱアオハルじゃないっしょ!」
ルールを崩さない、かぁ。
そこを崩してくれたら、あたしはめっちゃ助かるんだけど。
二人が得意げな顔をしてるけど、あたしは内心そんな事を思ってた。
みんなが決めているルールっていうのは、何を占わないかって事。
まず、ハル君の気持ち。
これがわかっちゃうと流石につまらないって事で、最初にこれは満場一致で決まった。
それから、あたしが何をしたらハル君の心を掴めるか。
そういうのは自力でどうにかしてほしいって思ってるみたいで、流石に占わないって言われたの。
正直な所、ハル君の気持ちを占わないって話は、本気で助かったなぁって思ってる。
あたしを好きじゃないだけじゃなく、別の人を好きだなんて知ったら、あたしはまず立ち直れないし。
でも、ハル君の心の掴み方は、正直占って欲しかった。
喉から手が出るくらいほしい情報だし、別にアオハルなんて、付き合ってからだって感じられるじゃん。
今のじれじれした恋心のままいる方が、ずっと辛いだけし……その、付き合えるなら、やっぱ早いほうがいいし……。
「じゃ、占うね」
考えこんでいるあたしの返事も待たずに、妙花が学生カバンから手のひらサイズの小さくて綺麗な水晶玉と下に敷くクッションを取り出し、テーブルの上に配置していく。
これを見るのは二度目。
凄く透き通った水晶玉は、小さいながら目を奪われるくらい綺麗。
何時見てもお高そう……なんて思っていると、妙花が目を閉じ、水晶に手をかざす。
なんか占い師って、こういう時何か言ったり、手を動かしてみたりとかするのかなって思ったけど、妙花は無言のまま微動だにしない。
見慣れているのか。結菜と宇多ちゃんは期待の眼差しでじーっと見てる。
でも、あたしは妙花の無表情さもあって、占ってる時の彼女にちょっと不気味さを感じちゃうんだよね……。
恋路を占ってもらってるはずなのに、全然関係ない事を考えながら妙花を見守っていると、しばらくして彼女がゆっくりと目を開いた。
「終わった?」
「うん」
結菜の言葉に頷いた妙花が、じっとあたしの目を見つめてくる。
「今日の帰り。本屋に寄って」
「え?」
本屋?
何で本屋……って、そこにハル君がいるからって事だよね。
でも、そもそもハル君って、そんなに本読んだりしないけど、それなのに本屋にいるの?
それに、今日この後?
あたしの頭には、正直ハテナが浮かびまくってるけど、一旦それは忘れなきゃ。
そんな事より、今は妙花にもっと大事な事を聞かないと。
「本屋って、何処の?」
そう。どのお店か知らないと、ハル君に会えないかも知れないじゃん。
迷わずそう尋ねたあたし。だけど、妙花は真顔で衝撃的な事を言ってきた。
「わかんない」
「わ、わからない? 占いでお店の名前とか見えなかったの?」
「うん」
相変わらずの真顔。
妙花ってどこか竹を割ったかのような性格をしてて、こういう風に言い切られると、だいたいそれ以上の話に繋がらない。
っていうか。店がわからなかったら、すれ違って終わっちゃうじゃん。
「妙っちが占ったんだしー。流石に美桜っちが知らないお店はありえなくなーい?」
宇多ちゃんがそう言ってきたけど、確かにあたしが知らない本屋に行って、ハル君に会うなんていう奇跡、早々起こらないと思う。
じゃないと、占い外れちゃうし。
「うーん……」
本屋……本屋……。
顎に手をやり首を傾げながら、心当たりがある本屋を思い浮かべてみる。
確かこっちの駅だと、すぐそこのショッピングモールに、一軒大きな本屋があったような気がする。
あとは家の最寄り駅の駅前に小さな本屋があるのと、家の近所の商店街にも一軒あったかな。
でも、こっちの本屋だったらすぐ寄れるけど、もし最寄り駅の方だったらまだ一時間も掛かる。
今は夕方五時。
ハル君は今日一人で帰ってったし、用事もないのに寄り道なんてあまりしないって考えたら、こっちの本屋かな?
でも、学校帰りに本屋で三十分以上もいる?
ハル君ってマンガは読んでそうだけど、そこまで本の虫って感じはないし。
だいたい買い物なら、探す物を見つけたら、すぐ店を出ちゃいそうだけど……。
「まずは、美桜ちゃんが足を運びたいって思う、本屋にでも行ってみたら?」
「うーん。そうだねー。考えても埒があかないし。そうしてみる」
結菜の言う通り。考えても仕方ないし、帰りに家の近所の本屋にでも寄ってみよう。
そう割り切ったあたしに、妙花がぼそっとこう言った。
「ちゃんと、結果出してね」
「へ? け、結果って……こ、告白しろってこと!?」
いきなりの要望に、あたしは思わず目を丸くすると、慌てて両手を振った。
「無理無理無理無理! まだ心構えだってできてないし、本屋で告白なんて──」
「そこまでは言ってない」
あたしの動揺に、さらっと釘を差す妙花。
それを見た結菜が、「そういうことかー」なんて納得してるけど、どういう事?
「え、えっと。じゃあ、どうしろっていうの?」
「この先に繋がるような結果を出そうって事だよね? 妙ちゃん」
「うん」
結菜の言葉に、妙花が迷いなく頷く。
「結果? 結果って……」
「決まってるじゃーん。例えばー、一緒にデートする約束取り付けるとかー。ゴールデンウィークに家に上がらせてもらうとか。妙っちだってー、そういうアオハルな話、期待してるっしょ?」
「うん。だから占ったし」
にこにこの宇多ちゃんに、まるで正論と言わんばかりに妙花が真顔で頷いてる。
いや、だから占ったって……。
勝手にしたくせに……なんて愚痴るのは、流石によくないよね。
結果。結果かぁ……。
確かにあたしが一番欲しいのも、そういう少しずつ前に向かうための結果。
だけど、そう簡単に言われても困るんですけど……。
あたしは眉間に皺を寄せながら、ジュースの入ったカップを手にすると、困惑する気持ちをストローから入るジュースと一緒に飲み干したの。