ふぅ。良かった……。
向かいで笑顔になった美桜を見ながら、俺は内心ほっとした。
映画館に着いた辺りから様子がおかしかったし、このレストランに来るまでの間も、なんか表情が固かったから怪しいと思ってたんだよ。
ただ、多分映画のことで自分を責めてるんだろうとは予想してたけど。まさか先輩達と一緒にいたのを見られただけじゃなく、その時と比較されるとは思わなかった。
状況があまりに違うし、流石に気にし過ぎだろって……ん? 気にし過ぎ?
ふと、俺はそこにある違和感に気づいた。
例えば、美桜が男友達と遊んでいたとするだろ?
俺は美桜が好きだからこそ、そんな光景を見たら複雑な気持ちにもなる。
だけどもし、俺があいつをただの幼馴染としか思ってなかったら、そこまで気にするか?
他の女子生徒を見てるみたいに「へー。あいつも色気づいたんだな」くらいの気持ちで終わらないか? 茶化すネタができた、くらいにならないか?
俺が思う行動と、ややかけ離れたようにも感じる美桜の行動。
もしかして美桜の奴、俺が先輩達といた事に嫉妬した?
……いやいやいやいや。流石にそれはないだろ。
こいつは結構繊細だし、予想以上に映画でダメージを受けてネガティブになってただけだって。
そうだったら嬉しい妄想だけで思い込んで、外れてたらそれこそショックが大きい。今は気にするな。
「そういえば、ハル君のその服、どこで買ったの?」
俺がやましい気持ちを必死に振り払っていると、美桜がそんな質問をしてきた。
「これ? あー……」
素直に答えを返そうとして、俺ははたと思い出し会話を止める。
そういやYUKINOさんが言ってたよな。
──「これはビジネスではあるけど、会社とは関係ないプライベートでもあるわ。だから、周囲に言いふらしちゃだめよ」
って。
◆ ◇ ◆
あの日、YUKINOさんから出された提案。
それは、プライベートの専属モデルをしてほしいっていう物だった。
勿論プライベート。プロのような表舞台での活動はなくって、単純にデザインした服を着て感触を見たいって理由だけだっていうから、正直それくらいなら、って思ってたんだけど。
その提案の中には今後モデルをしてもらう際のバイト代とか、今回を含め、作った服はプレゼントするっていう凄い条件もあった。
流石にそこまでいくと、俺一人だけで判断していい気がしなくって、俺はその場で両親に電話をさせてもらい、ここまでの事情を説明。
その後、両親とYUKINOさんも話をして説得してくれた事で、この件を受け、今回オーダーメイドの服を作ってもらえる事になった。
それで、今朝この間のお店まで行って着替えさせてもらったんだけど。
まさか、こんなVtuberやゲームキャラみたいな、衣装といってもいいデザインの服になるとは思ってなくって、正直めちゃくちゃびっくりした。
──「これくらいの方が、身長の事なんて忘れて、胸を張れるれるでしょ?」
なんてYUKINOさんは笑ってたけど、実際着て行動していると、いつも以上に人の目を引いた。
間違いなくこれは、この服だったから。
俺がこんな服を着てていいのかって気持ちが強過ぎて、ある意味じゃ身長の事は結構忘れられてたと思う。その分、別の緊張は凄かったけど。
でも、実際美桜に逢ったら、あいつも俺寄りの着飾った服だったから、結果としてこの格好で本当に良かったなとは思ってる。
◆ ◇ ◆
さて、問題はどこまで話すか、だよなぁ。
先輩達が、スタトルの社長直々にデザインしてもらうなんてヤバ過ぎなんて言ってたし、そういう話が広まるのは流石にやばい。
ただ、美桜にはちゃんと話しておいた方がいい気もする。
ここで隠すと変な誤解を受けそうだし……そうだ。
「なあ。この後カラオケに行かないか?」
「へ? なんで急に?」
突然の提案にきょとんとする美桜。
「あ、いや。ちょっとこういう場所じゃ話しにくいからさ。個室なら話しやすいと思って」
というのは、半分は本音で半分は建前。
じゃあもう半分の理由はと言うと、この間先輩達の前で披露した『キミの背中』を歌って聞かせようと思ったから。
折角なんだ。こういう時に、少しでも意識させられないかなって思ったんだ。
まあ、あいつが俺の想いに気づいてくれるかは、正直未知数だけど。
「そっか。じゃあ、話しついでに久々に一緒に歌っちゃう?」
「そうだな。折角行くんだし、楽しもうぜ」
「うん」
俺の提案を聞いて、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をする美桜。
……やっぱ今日のあいつ、可愛すぎだろって。
普段の髪も綺麗だけど、いつもより毛艶がよく見えるし、何よりワンポイントのリボンがより可愛さを強調してて、女の子らしさが凄く出てる。
多分、普段以上に可愛く見えるのは、俺があいつを好きだからってだけじゃないよな。
……あれ? 待てよ?
「なあ」
「何?」
「お前は何で今日、そんなに着飾ってるんだ? 普段なら制服だろ?」
「あー。えっと……」
質問を聞いたあいつが、少し頬を赤らめ恥じらう。
うわぁ……。こういうのもやっぱ良いよなぁ。
あいつの可愛さにドキドキとしていると。
「その、ハル君とおんなじ理由」
美桜は少しもじもじしながら、そう答えてくれた。
……ん?
「俺と同じ?」
「う、うん。その、あたしもハル君と一緒の時に、ハル君に恥ずかしい思いをしてほしくなくって。それで、少しでも可愛い服を着たいなって思ったの」
「それでその服を選んだのか」
「うん。ちょっと派手かなとは思ったけど、友達も可愛いって言ってくれたし、大丈夫かなって」
……あいつも俺と同じような事を思って、気を遣ってくれたのか。
ほんと。お前のそういう気遣い、好きになったあの頃から全然変わらないな。
ふと、YUKINOさんに話をした、あの頃を思い出してしまい、俺は恥ずかしさで真っ赤になりそうなのを必死にごまかし、話を続けた。
「そうか。でも、確かにお前の友達、見る目あると思うぞ」
「そ、そう?」
「ああ。男の俺から見ても、可愛いく見えるし」
「そ、そっか。えへへ……」
美桜が顔を赤くしながら照れている。俺の言葉で。
……うっわー。そういう顔するなって。こっちが見惚れそうになるじゃないか。
あいつから目を離せないでいると、今度ははっとした美桜から口を開いた。
「そ、そういえば! 家族旅行はどうだったの?」
「あ、ああ。まあ旅館でのんびりもできたし、観光名所も色々見られて良かったよ。……あ、思い出した」
俺はジャケットの内ポケットに忍ばせていた、小さめに紙包みを取り出し、あいつの前にすっと差し出す。
「これ。お土産」
「え? あたしに?」
「ああ。お菓子とかは今日両親が届けてるだろうから、一応別に」
「うわぁ……ありがとう! 開けてもいい?」
喜びと共に、期待の眼差しを向けてくる美桜。だけど、俺はそんな彼女に苦笑いを向け。首を横に振った。
「え? ダメなの?」
「ごめん。悪いけど中身は家で確認してくれないか。流石に期待外れで、がっかりされると辛いし」
口にした理由は本当だ。
正直、これをお土産と言い切っていいのか、俺ですら迷う代物だし……。
「そっか。わかった。家に帰ってから開けるね」
「ああ。だけど、あんまり期待するなよ?」
「えーっ!? あたしもう、めちゃくちゃ期待してるんだけどなー」
「お、おい。本気でそういうのは止めろって」
「いいじゃーん。ハル君のセンスがこれでわかるわけだし。楽しみ以外ないもん」
美桜が俺の言葉に耳を貸さず、悪びれずにそういい切る。
いや、正直それは困るって言ってるだろ!
「だったらやらないからな!」
「いーやーでーすー! 貰った物はあたしの物。返品は承っておりませーん!」
俺が手を伸ばすより先に、さっと紙包みを掠め取ったあいつは、そのまま流れるような動きでポシェットにそれを仕舞った。
流石にそこまでされたら、取り返すってわけにもいかない。
「それは送る側が言う台詞だろって! ったく……」
「あははっ。そうだね。でも、ハル君から貰ったお土産だもん。どんな物でも嬉しいから。だから、楽しみにしとくね」
片手を顔に当てため息を漏らす俺に、美桜はにこにこと笑顔で優しくそう諭しにくる。
……あー。やっぱダメだな。
こんなあいつを見るだけで、俺は許せちゃうんだから。
「わかったよ」
敗北宣言をした俺は、あいつに釣られ呆れ笑いを見せた。
向かいで笑顔になった美桜を見ながら、俺は内心ほっとした。
映画館に着いた辺りから様子がおかしかったし、このレストランに来るまでの間も、なんか表情が固かったから怪しいと思ってたんだよ。
ただ、多分映画のことで自分を責めてるんだろうとは予想してたけど。まさか先輩達と一緒にいたのを見られただけじゃなく、その時と比較されるとは思わなかった。
状況があまりに違うし、流石に気にし過ぎだろって……ん? 気にし過ぎ?
ふと、俺はそこにある違和感に気づいた。
例えば、美桜が男友達と遊んでいたとするだろ?
俺は美桜が好きだからこそ、そんな光景を見たら複雑な気持ちにもなる。
だけどもし、俺があいつをただの幼馴染としか思ってなかったら、そこまで気にするか?
他の女子生徒を見てるみたいに「へー。あいつも色気づいたんだな」くらいの気持ちで終わらないか? 茶化すネタができた、くらいにならないか?
俺が思う行動と、ややかけ離れたようにも感じる美桜の行動。
もしかして美桜の奴、俺が先輩達といた事に嫉妬した?
……いやいやいやいや。流石にそれはないだろ。
こいつは結構繊細だし、予想以上に映画でダメージを受けてネガティブになってただけだって。
そうだったら嬉しい妄想だけで思い込んで、外れてたらそれこそショックが大きい。今は気にするな。
「そういえば、ハル君のその服、どこで買ったの?」
俺がやましい気持ちを必死に振り払っていると、美桜がそんな質問をしてきた。
「これ? あー……」
素直に答えを返そうとして、俺ははたと思い出し会話を止める。
そういやYUKINOさんが言ってたよな。
──「これはビジネスではあるけど、会社とは関係ないプライベートでもあるわ。だから、周囲に言いふらしちゃだめよ」
って。
◆ ◇ ◆
あの日、YUKINOさんから出された提案。
それは、プライベートの専属モデルをしてほしいっていう物だった。
勿論プライベート。プロのような表舞台での活動はなくって、単純にデザインした服を着て感触を見たいって理由だけだっていうから、正直それくらいなら、って思ってたんだけど。
その提案の中には今後モデルをしてもらう際のバイト代とか、今回を含め、作った服はプレゼントするっていう凄い条件もあった。
流石にそこまでいくと、俺一人だけで判断していい気がしなくって、俺はその場で両親に電話をさせてもらい、ここまでの事情を説明。
その後、両親とYUKINOさんも話をして説得してくれた事で、この件を受け、今回オーダーメイドの服を作ってもらえる事になった。
それで、今朝この間のお店まで行って着替えさせてもらったんだけど。
まさか、こんなVtuberやゲームキャラみたいな、衣装といってもいいデザインの服になるとは思ってなくって、正直めちゃくちゃびっくりした。
──「これくらいの方が、身長の事なんて忘れて、胸を張れるれるでしょ?」
なんてYUKINOさんは笑ってたけど、実際着て行動していると、いつも以上に人の目を引いた。
間違いなくこれは、この服だったから。
俺がこんな服を着てていいのかって気持ちが強過ぎて、ある意味じゃ身長の事は結構忘れられてたと思う。その分、別の緊張は凄かったけど。
でも、実際美桜に逢ったら、あいつも俺寄りの着飾った服だったから、結果としてこの格好で本当に良かったなとは思ってる。
◆ ◇ ◆
さて、問題はどこまで話すか、だよなぁ。
先輩達が、スタトルの社長直々にデザインしてもらうなんてヤバ過ぎなんて言ってたし、そういう話が広まるのは流石にやばい。
ただ、美桜にはちゃんと話しておいた方がいい気もする。
ここで隠すと変な誤解を受けそうだし……そうだ。
「なあ。この後カラオケに行かないか?」
「へ? なんで急に?」
突然の提案にきょとんとする美桜。
「あ、いや。ちょっとこういう場所じゃ話しにくいからさ。個室なら話しやすいと思って」
というのは、半分は本音で半分は建前。
じゃあもう半分の理由はと言うと、この間先輩達の前で披露した『キミの背中』を歌って聞かせようと思ったから。
折角なんだ。こういう時に、少しでも意識させられないかなって思ったんだ。
まあ、あいつが俺の想いに気づいてくれるかは、正直未知数だけど。
「そっか。じゃあ、話しついでに久々に一緒に歌っちゃう?」
「そうだな。折角行くんだし、楽しもうぜ」
「うん」
俺の提案を聞いて、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をする美桜。
……やっぱ今日のあいつ、可愛すぎだろって。
普段の髪も綺麗だけど、いつもより毛艶がよく見えるし、何よりワンポイントのリボンがより可愛さを強調してて、女の子らしさが凄く出てる。
多分、普段以上に可愛く見えるのは、俺があいつを好きだからってだけじゃないよな。
……あれ? 待てよ?
「なあ」
「何?」
「お前は何で今日、そんなに着飾ってるんだ? 普段なら制服だろ?」
「あー。えっと……」
質問を聞いたあいつが、少し頬を赤らめ恥じらう。
うわぁ……。こういうのもやっぱ良いよなぁ。
あいつの可愛さにドキドキとしていると。
「その、ハル君とおんなじ理由」
美桜は少しもじもじしながら、そう答えてくれた。
……ん?
「俺と同じ?」
「う、うん。その、あたしもハル君と一緒の時に、ハル君に恥ずかしい思いをしてほしくなくって。それで、少しでも可愛い服を着たいなって思ったの」
「それでその服を選んだのか」
「うん。ちょっと派手かなとは思ったけど、友達も可愛いって言ってくれたし、大丈夫かなって」
……あいつも俺と同じような事を思って、気を遣ってくれたのか。
ほんと。お前のそういう気遣い、好きになったあの頃から全然変わらないな。
ふと、YUKINOさんに話をした、あの頃を思い出してしまい、俺は恥ずかしさで真っ赤になりそうなのを必死にごまかし、話を続けた。
「そうか。でも、確かにお前の友達、見る目あると思うぞ」
「そ、そう?」
「ああ。男の俺から見ても、可愛いく見えるし」
「そ、そっか。えへへ……」
美桜が顔を赤くしながら照れている。俺の言葉で。
……うっわー。そういう顔するなって。こっちが見惚れそうになるじゃないか。
あいつから目を離せないでいると、今度ははっとした美桜から口を開いた。
「そ、そういえば! 家族旅行はどうだったの?」
「あ、ああ。まあ旅館でのんびりもできたし、観光名所も色々見られて良かったよ。……あ、思い出した」
俺はジャケットの内ポケットに忍ばせていた、小さめに紙包みを取り出し、あいつの前にすっと差し出す。
「これ。お土産」
「え? あたしに?」
「ああ。お菓子とかは今日両親が届けてるだろうから、一応別に」
「うわぁ……ありがとう! 開けてもいい?」
喜びと共に、期待の眼差しを向けてくる美桜。だけど、俺はそんな彼女に苦笑いを向け。首を横に振った。
「え? ダメなの?」
「ごめん。悪いけど中身は家で確認してくれないか。流石に期待外れで、がっかりされると辛いし」
口にした理由は本当だ。
正直、これをお土産と言い切っていいのか、俺ですら迷う代物だし……。
「そっか。わかった。家に帰ってから開けるね」
「ああ。だけど、あんまり期待するなよ?」
「えーっ!? あたしもう、めちゃくちゃ期待してるんだけどなー」
「お、おい。本気でそういうのは止めろって」
「いいじゃーん。ハル君のセンスがこれでわかるわけだし。楽しみ以外ないもん」
美桜が俺の言葉に耳を貸さず、悪びれずにそういい切る。
いや、正直それは困るって言ってるだろ!
「だったらやらないからな!」
「いーやーでーすー! 貰った物はあたしの物。返品は承っておりませーん!」
俺が手を伸ばすより先に、さっと紙包みを掠め取ったあいつは、そのまま流れるような動きでポシェットにそれを仕舞った。
流石にそこまでされたら、取り返すってわけにもいかない。
「それは送る側が言う台詞だろって! ったく……」
「あははっ。そうだね。でも、ハル君から貰ったお土産だもん。どんな物でも嬉しいから。だから、楽しみにしとくね」
片手を顔に当てため息を漏らす俺に、美桜はにこにこと笑顔で優しくそう諭しにくる。
……あー。やっぱダメだな。
こんなあいつを見るだけで、俺は許せちゃうんだから。
「わかったよ」
敗北宣言をした俺は、あいつに釣られ呆れ笑いを見せた。