あっという間に一週間が過ぎ。
ついに五月六日。あたしの運命を決めるデートの日がやって来た。
朝九時。
快晴の空の下、電車の席に座り揺られ向かってるのは、ハル君との待ち合わせ場所のある日野間駅──じゃなくって。宇多ちゃんに指示された、その数駅先にある加賀野駅。
何でそこに向かってるかっていうと、宇多ちゃんにそう指示されたから。
──「結菜も頑張ったんだし、あーしも、ちーゃんと美桜っちをアシストするかんね!」
って言ってくれたけど、何をするのかは教えてくれなかった。
ただ、この間ママチの予定を確認してたって事は、彼女のお母さんが関係してるのは間違いないよね。
ちなみに後で聞いたんだけど。妙花のお母さんも、あのテレビで有名な霊能力者、御霊浄さんだったの。
三人が両親繋がりで昔から知り合いだったんだって聞いて、思わず納得しちゃった。
だから、宇多ちゃんのお母さんも多分凄い人なんだと思うけど……あたしの友達、本当にやば過ぎじゃん。
本当に、こんな凄い子達とあたしなんかが友達でいいのかな……。
向かい側の窓を流れる外の景色を見ていると、途中でトンネルに入る。
景色の代わりにはっきりと窓に写ったのは、普段とはぜんぜん違う服を着た、別人のようなあたし。
……雪乃さんの作ってくれた服、本当に可愛いよね。
あたしから見ても間違いなくそう感じる服は、まるでアイドルが着るかのような、白のブラウスにオレンジと白を基調としたチェック柄のベストと、同じ柄の膝丈まであるブリーツスカートに白のニーハイソックスっていう、春色っぽさ全開の一着だった。
◆ ◇ ◆
金曜の夜。
考えた末にあたしが出した答えは、両親と相談したいって事だった。
いや、だって。雪乃さんが商品にならないって言ったって、世間的には絶対高価な服。それをタダで貰うなんて話もそうだし、バイト代まで出るなんて話をされたら、あたし一人で決めていい話じゃないと思ってたし……。
で。それを聞いた雪乃さんが、
「だったら、私からご両親にちゃんとお話するわ」
って言ってくれたの。
それで、土曜にの午後にわざわざ私の家まで来てくれて、両親にちゃんと話をしてくたんだよね。
ちゃんと契約書まで用意して、両親に事情を含めて丁寧にすべてを説明してくれたお陰で、お父さんもお母さんも納得して、あたしがいいなら構わないと言ってくれて。お陰であたしも踏ん切りがついて、雪乃さんにお願いする事ができたの。
それで、五月五日には服ができるって聞いて、昨日また雪乃さんのアトリエに行ったんだけど……まさか、こんなに可愛いくって、だけどちゃんとサイズもピッタリの服を用意してもらえるなんて思わなかった。
実際これを着て姿見で自分を見た瞬間、見違えるあたしに暫く惚けちゃったくらい。
一緒に来ていた結菜達も、凄く似合ってるって言ってくれたし。
今日これを着て駅まで来た時も、今までよく向けられてた身長の高さからくる奇異の目だけじゃなく、すれ違い際に「あれ、めっちゃ可愛くない?」なんてヒソヒソ声が聞こえるくらい、普段と違う意味で注目を集めているのを感じて、この格好に少し自信を持てたのは確かかも。
◆ ◇ ◆
これだけでも十分幸せだし嬉しい。
でも、今日はそれだけじゃダメ。ハル君と少しでも何か進展させなきゃ。
そんな決意をしながら、窓に映る自分を見つめていると、窓の向こうの再び景色が開け、あたしの姿が薄っすらとしか見えなくなる。
少しずつビルなんかが増えて、華やかになっていく景色。
ここが今日、あたしの決戦の場になるんだよね……。
「次は、日野間。日野間。出口は右側です」
通学中にも耳に入る、聞き慣れたアナウンス。
今は降りない駅のホームを見ながら、あたしは不安と期待が入り混じった気持ちを落ち着けるように、大きく深呼吸をした。
◆ ◇ ◆
「おっはよー!」
「おはよ」
「おはよう」
加賀野駅を出た所で、出迎えてくれた結菜達。
昨日みんなもあたし色違いだけどあたしとお揃いの服を用意してもらってて、今日もそれを着てる。
ピンク色の結菜に水色の妙花。そして黄色の宇多ちゃん。
ほんとに三人も凄く可愛いくて似合ってるし、彼女達がアイドルグループって言われても違和感ないと思う。
結菜と妙花とは挨拶を交わしたけど、宇多ちゃんだけは何も言わず、こっちを真剣な顔でじろじろ見ながら周りを一周する。
あれ? もしかして、どこか間違った着方をしてた?
「宇多ちゃん。あたし、何か変?」
不安になってそう尋ねると、一周した宇多ちゃんが顔を上げ笑顔を見せた。
「ううん。美桜っちも似合ってて、めっちゃいいじゃーんって思って」
「そ、そっか。よかったぁ……」
「うんうん! あとは詠海おばさんのヘアメイクで完璧!」
ほっと胸を撫で下ろすと、結菜もニコニコしながらそう口に……え?
「へ、ヘアメイク?」
今まで経験した事のないものを口にされて、あたしがきょとんとすると、宇多ちゃんがふふんと自慢げな顔をする。
「ま、結菜や妙っちのママチと一緒で、あーしのママチも凄いかんね! 期待しといて!」
なんて言ってるけど。雪乃さんの塾の時点でもう別人なのに、これより変わる事なんてあるの?
内心そんな疑いを持ちながらも、あたしは何とか「うん」って返事した。
◆ ◇ ◆
宇多ちゃんの案内で、場所を郊外の閑静な住宅街にある、あからさまに高級そうなヘアサロンに移したあたし達。
今日は祝日でお休み。つまり、あたしのためにわざわざお店を開けてくれてるわけで、正直申し訳ない気持ちになったけど、宇多ちゃんのお母さん、詠海さんは「そんな事気にしなくていいわよー」なんて、笑顔で出迎えてくれた。
っていうか。あたしは彼女を見て、また目を丸くしちゃった。
だってこの人、数々のアーティストのヘアメイクを担当してる事で有名な、ヘアメイクアーティストのSINGさんだったんだもん。
「あーしのママチも凄いっしょ?」
なんて宇多ちゃんがドヤ顔をしたけど、そりゃ驚くしかないじゃん。
結菜や妙花に並ぶくらいの有名人のお母さんに、あたしはもう「うん。凄すぎ……」って感想しか口にできなかった。
で、着いて早々、いきなりスタイリングチェアに座らされたあたしは、そのまま髪を少しカットされ、シャンプーやトリートメントもされ、髪を乾かした後に軽くメイクをしてもらって、最後に髪の毛も色々と整えてもらい……。
「どう? こんな感じで」
すべてが終わって、あたしは改めて壁の姿見で自分を見たんだけど。
……誰よこれ? この可愛い子、誰?
あたしはそう思わずにはいられなかった。
やっぱり元はあたしだし、完全に別人ってわけじゃない。
でも、ストレートだったあたしの髪は、先端の方だけふわっとカールが入ってるし、サイドで一部の髪を服の色に合った同じ模様の細いリボンで束ねてるのは、ワンポイントとしても凄く可愛い。
「肌もきれいで血色もいいから、ナチュラルメイクで良さそうねー」
なんて言いながら、詠海さんがしてくれたメイク。
お陰で顔も普段より明るく見える感じで、それこそあたしじゃないみたい。
驚きと喜びの入り混じった笑顔のまま、正面から背中まで一生懸命確認する。
これヤバい! ヤバいくらい嬉しい!
もう喜びと興奮が抑えられなくって、くるくると鏡の前で背を向けたり、横を向いたりしながら、あたしが自分じゃない自分を堪能していると。
「どーお? ママチのメイク」
って、ニコニコとした宇多ちゃんが、あたしに並んで笑顔を見せた。
「うん。もう、あたしじゃないみたい」
「ううん。この可愛さは、間違いなく美桜」
「そうそう! ママも褒めてたでしょ? やっぱり美桜ちゃんは可愛いの!」
小さく笑う妙花と、相変わらずの笑顔を向けてくる結菜にはにかんだあたしは、また鏡を見た。
みんなより頭一つ以上抜けている、鏡に映るあたし。
だけど、今はそんな身長差なんて気にならない。
勿論、まったくコンプレックスがないなんて事はない。だけど今のあたしは、この可愛さのお陰で胸を張っていられる。
「美桜っち。今日はガンバだよ!」
「いきなり告白なんてしなくっていいから、ちゃーんとハル君の目を釘付けにしてくるんだよ?」
明るく声援を掛けてくれる、宇多ちゃんと結菜。
妙花も無言だけど、そうだよって言わんばかりに小さく頷く。
「……うん。ありがと」
うん。今日のハル君とのデート。絶対に物にしなきゃね。
あたしはみんなに笑顔を振りまきながら、心を引き締め決意を固めたの。
ついに五月六日。あたしの運命を決めるデートの日がやって来た。
朝九時。
快晴の空の下、電車の席に座り揺られ向かってるのは、ハル君との待ち合わせ場所のある日野間駅──じゃなくって。宇多ちゃんに指示された、その数駅先にある加賀野駅。
何でそこに向かってるかっていうと、宇多ちゃんにそう指示されたから。
──「結菜も頑張ったんだし、あーしも、ちーゃんと美桜っちをアシストするかんね!」
って言ってくれたけど、何をするのかは教えてくれなかった。
ただ、この間ママチの予定を確認してたって事は、彼女のお母さんが関係してるのは間違いないよね。
ちなみに後で聞いたんだけど。妙花のお母さんも、あのテレビで有名な霊能力者、御霊浄さんだったの。
三人が両親繋がりで昔から知り合いだったんだって聞いて、思わず納得しちゃった。
だから、宇多ちゃんのお母さんも多分凄い人なんだと思うけど……あたしの友達、本当にやば過ぎじゃん。
本当に、こんな凄い子達とあたしなんかが友達でいいのかな……。
向かい側の窓を流れる外の景色を見ていると、途中でトンネルに入る。
景色の代わりにはっきりと窓に写ったのは、普段とはぜんぜん違う服を着た、別人のようなあたし。
……雪乃さんの作ってくれた服、本当に可愛いよね。
あたしから見ても間違いなくそう感じる服は、まるでアイドルが着るかのような、白のブラウスにオレンジと白を基調としたチェック柄のベストと、同じ柄の膝丈まであるブリーツスカートに白のニーハイソックスっていう、春色っぽさ全開の一着だった。
◆ ◇ ◆
金曜の夜。
考えた末にあたしが出した答えは、両親と相談したいって事だった。
いや、だって。雪乃さんが商品にならないって言ったって、世間的には絶対高価な服。それをタダで貰うなんて話もそうだし、バイト代まで出るなんて話をされたら、あたし一人で決めていい話じゃないと思ってたし……。
で。それを聞いた雪乃さんが、
「だったら、私からご両親にちゃんとお話するわ」
って言ってくれたの。
それで、土曜にの午後にわざわざ私の家まで来てくれて、両親にちゃんと話をしてくたんだよね。
ちゃんと契約書まで用意して、両親に事情を含めて丁寧にすべてを説明してくれたお陰で、お父さんもお母さんも納得して、あたしがいいなら構わないと言ってくれて。お陰であたしも踏ん切りがついて、雪乃さんにお願いする事ができたの。
それで、五月五日には服ができるって聞いて、昨日また雪乃さんのアトリエに行ったんだけど……まさか、こんなに可愛いくって、だけどちゃんとサイズもピッタリの服を用意してもらえるなんて思わなかった。
実際これを着て姿見で自分を見た瞬間、見違えるあたしに暫く惚けちゃったくらい。
一緒に来ていた結菜達も、凄く似合ってるって言ってくれたし。
今日これを着て駅まで来た時も、今までよく向けられてた身長の高さからくる奇異の目だけじゃなく、すれ違い際に「あれ、めっちゃ可愛くない?」なんてヒソヒソ声が聞こえるくらい、普段と違う意味で注目を集めているのを感じて、この格好に少し自信を持てたのは確かかも。
◆ ◇ ◆
これだけでも十分幸せだし嬉しい。
でも、今日はそれだけじゃダメ。ハル君と少しでも何か進展させなきゃ。
そんな決意をしながら、窓に映る自分を見つめていると、窓の向こうの再び景色が開け、あたしの姿が薄っすらとしか見えなくなる。
少しずつビルなんかが増えて、華やかになっていく景色。
ここが今日、あたしの決戦の場になるんだよね……。
「次は、日野間。日野間。出口は右側です」
通学中にも耳に入る、聞き慣れたアナウンス。
今は降りない駅のホームを見ながら、あたしは不安と期待が入り混じった気持ちを落ち着けるように、大きく深呼吸をした。
◆ ◇ ◆
「おっはよー!」
「おはよ」
「おはよう」
加賀野駅を出た所で、出迎えてくれた結菜達。
昨日みんなもあたし色違いだけどあたしとお揃いの服を用意してもらってて、今日もそれを着てる。
ピンク色の結菜に水色の妙花。そして黄色の宇多ちゃん。
ほんとに三人も凄く可愛いくて似合ってるし、彼女達がアイドルグループって言われても違和感ないと思う。
結菜と妙花とは挨拶を交わしたけど、宇多ちゃんだけは何も言わず、こっちを真剣な顔でじろじろ見ながら周りを一周する。
あれ? もしかして、どこか間違った着方をしてた?
「宇多ちゃん。あたし、何か変?」
不安になってそう尋ねると、一周した宇多ちゃんが顔を上げ笑顔を見せた。
「ううん。美桜っちも似合ってて、めっちゃいいじゃーんって思って」
「そ、そっか。よかったぁ……」
「うんうん! あとは詠海おばさんのヘアメイクで完璧!」
ほっと胸を撫で下ろすと、結菜もニコニコしながらそう口に……え?
「へ、ヘアメイク?」
今まで経験した事のないものを口にされて、あたしがきょとんとすると、宇多ちゃんがふふんと自慢げな顔をする。
「ま、結菜や妙っちのママチと一緒で、あーしのママチも凄いかんね! 期待しといて!」
なんて言ってるけど。雪乃さんの塾の時点でもう別人なのに、これより変わる事なんてあるの?
内心そんな疑いを持ちながらも、あたしは何とか「うん」って返事した。
◆ ◇ ◆
宇多ちゃんの案内で、場所を郊外の閑静な住宅街にある、あからさまに高級そうなヘアサロンに移したあたし達。
今日は祝日でお休み。つまり、あたしのためにわざわざお店を開けてくれてるわけで、正直申し訳ない気持ちになったけど、宇多ちゃんのお母さん、詠海さんは「そんな事気にしなくていいわよー」なんて、笑顔で出迎えてくれた。
っていうか。あたしは彼女を見て、また目を丸くしちゃった。
だってこの人、数々のアーティストのヘアメイクを担当してる事で有名な、ヘアメイクアーティストのSINGさんだったんだもん。
「あーしのママチも凄いっしょ?」
なんて宇多ちゃんがドヤ顔をしたけど、そりゃ驚くしかないじゃん。
結菜や妙花に並ぶくらいの有名人のお母さんに、あたしはもう「うん。凄すぎ……」って感想しか口にできなかった。
で、着いて早々、いきなりスタイリングチェアに座らされたあたしは、そのまま髪を少しカットされ、シャンプーやトリートメントもされ、髪を乾かした後に軽くメイクをしてもらって、最後に髪の毛も色々と整えてもらい……。
「どう? こんな感じで」
すべてが終わって、あたしは改めて壁の姿見で自分を見たんだけど。
……誰よこれ? この可愛い子、誰?
あたしはそう思わずにはいられなかった。
やっぱり元はあたしだし、完全に別人ってわけじゃない。
でも、ストレートだったあたしの髪は、先端の方だけふわっとカールが入ってるし、サイドで一部の髪を服の色に合った同じ模様の細いリボンで束ねてるのは、ワンポイントとしても凄く可愛い。
「肌もきれいで血色もいいから、ナチュラルメイクで良さそうねー」
なんて言いながら、詠海さんがしてくれたメイク。
お陰で顔も普段より明るく見える感じで、それこそあたしじゃないみたい。
驚きと喜びの入り混じった笑顔のまま、正面から背中まで一生懸命確認する。
これヤバい! ヤバいくらい嬉しい!
もう喜びと興奮が抑えられなくって、くるくると鏡の前で背を向けたり、横を向いたりしながら、あたしが自分じゃない自分を堪能していると。
「どーお? ママチのメイク」
って、ニコニコとした宇多ちゃんが、あたしに並んで笑顔を見せた。
「うん。もう、あたしじゃないみたい」
「ううん。この可愛さは、間違いなく美桜」
「そうそう! ママも褒めてたでしょ? やっぱり美桜ちゃんは可愛いの!」
小さく笑う妙花と、相変わらずの笑顔を向けてくる結菜にはにかんだあたしは、また鏡を見た。
みんなより頭一つ以上抜けている、鏡に映るあたし。
だけど、今はそんな身長差なんて気にならない。
勿論、まったくコンプレックスがないなんて事はない。だけど今のあたしは、この可愛さのお陰で胸を張っていられる。
「美桜っち。今日はガンバだよ!」
「いきなり告白なんてしなくっていいから、ちゃーんとハル君の目を釘付けにしてくるんだよ?」
明るく声援を掛けてくれる、宇多ちゃんと結菜。
妙花も無言だけど、そうだよって言わんばかりに小さく頷く。
「……うん。ありがと」
うん。今日のハル君とのデート。絶対に物にしなきゃね。
あたしはみんなに笑顔を振りまきながら、心を引き締め決意を固めたの。