「すいませーん」
お客や商品を避けながら、レジカウンターの隣、オーダーメイドの受付まで向かった俺達。東野先輩がそこにいる店員さんに声を掛けると、大人びた女性がこちらに笑顔を向けてくれる。
「いらっしゃいませ。オーダーメイドのご要望でしょうか?」
「あ、えっとー。そうなんですけどー。ちょっと折り入って、相談したいことがあってー」
「はい。何でしょう?」
店員さんは笑顔を絶やさず話を聞いてくれている。
だけど。
「あの。男性服のオーダーメイドって、お願いする事はできませんか?」
「え?」
西原先輩が口にした言葉を聞いた瞬間、流石に驚いた顔をした。
「あの、大変申し訳ございません。こちらは女性服を専門に扱っておりまして……」
「それは重々承知なんですが。できればお話だけでも聞いてもらえませんか?」
「お願いします!」
東野先輩が勢いよく頭を下げるのに合わせ、俺も頭を下げる。
「うーん……」
店員さんの困った声が聞こえた後。
「少々、お待ち下さいね」
彼女が歩き去っていく音がした。
「……ね? どう? 迫真の演技だった?」
隣で頭を下げていた東野先輩が、姿勢をそのままにこっちを向き、ひそひそとそんな事を言う。
いや、演技も何も。頭を下げただけじゃないか……。
内心そう思ったけど、敢えてそこには触れず、
「そうですね」
短い言葉で話を合わせながら、俺は苦笑しながら頭を上げた。
彼女の隣では西原先輩が、何も言わずに呆れ笑いを浮かべてる。
まあ、東野先輩なりに頑張ってくれてるし、苦言を呈して気分を害してもいけないよな。
とはいえ。店員さんも困ってたし、やっぱり無理だろうなぁ。男子服は流石に畑が違うだろうし。
さっきの反応から半ば諦め気味でいると、少しして裏からさっきの店員さんが顔を出した。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「え?」
こちらへどうぞって事は、話を聞いてもらえるのか?
俺が驚き先輩達を見ると、西原先輩も意外だったのか。完全に虚を突かれぽかんとしている。
唯一、東野先輩だけはぱぁっと笑顔を輝かせると、すぐさま西原先輩の背後に回り込んだ。
「ありがとうございまーっす! 二人共、行こ行こっ!」
「え? あ、雨音!? 押さないの!」
「雫が遅いからだよー! ほらーっ! ハル君も早く早くー!」
「あ。は、はい」
戸惑う西原先輩の背を押し、強引に彼女と歩き始める東野先輩。
これには案内してくれた店員さんも、くすくすっと小さく笑っている。
ほんと。そんなに嬉しそうな反応をしたら、迫真の演技すら意味をなさないだろって……。
自然と肩を竦めた俺は、東野先輩にどやされる前に、彼女の後に続きバックヤードへと入って行った。
◆ ◇ ◆
短い廊下を進んだ先。『Reception room』と書かれた部屋のドアをノックした店員さん。
「はい」
「社長。店長。お客様をお連れしました」
へ? 社長?
店長ならわかるけど、社長って?
俺が困惑し先輩達を見ると、二人も驚いた顔をしている。
「社長って……もしかして……」
なんて東野先輩も呟いて──あれ? もしかしてって事は、二人はその人を知ってるのか?
「ありがとう。入ってもらって」
「はい。失礼します」
俺達の困惑なんて関係なしに、部屋の中からした女性の声。
その指示に従い、ドアを開けた店員さんが、俺達を見た。
「どうぞ。お話は中で」
「ありがとうございます」
ペコリと会釈し、先に部屋に入った先輩達に続き、中に入ろうとした瞬間。
「あーっ!」
「ぶほっ!」
急に止まった東野先輩の背中に、俺の顔がめり込んだ。
な、なんだ? 急に大きな声を出して。
ぶつけた鼻を押さえつつ、慌てて距離を空け二人を見ると、彼女達は部屋の奥を見て驚いている。
ただ、二人がちょうど壁になっていて、俺の身長じゃそっちを見る事ができない。
こういう時、この身長が恨めしくなるな……ってのは置いといて。一体、奥に誰がいたんだろう?
そんな俺の疑問に答えるかのように、西原先輩が驚きの声を口にした。
「もしかして、本物のYUKINOさんですか!?」
YUKINOさん?
知り合いってわけじゃなさそうだけど。有名人なんだろうか?
「あら。私を知っているの?」
「JKなら誰だって知ってますよー! スタトルの社長であり、新進気鋭の人気ファッションデザイナー! JKの心を掴む服を沢山デザインしている、あたし達の憧れの的ですもん!」
東野先輩が部屋の奥に向かい、興奮気味にそう話すと、奥からくすくすと笑い声がした後。
「そこまで言ってもらえるなんて光栄ね。ありがとう」
そんな優しい声が聞こえた。
「さて。まずはお話を聞きましょうか。こちらにどうぞ」
「はい! 失礼しまーす!!
社長と思われる声に促され、二人が部屋の奥に入って行く。それに続いて俺も部屋に入ると、手前の一人掛けソファーの所に、二人の女性が立っていた。
一人は、店に並んでいたような服で着飾った女性。
もう一人は、はっきりとブランド物っぽいレディーススーツを着こなしている女性。
多分、スーツの女性が社長のYUKINOさんって人かな。今までに見た事はないけど、なんか華やかなオーラがあるし。
「ハル君は真ん中ね! 早く早く!」
「あ、はい。失礼します」
東野先輩に促されるまま、俺は部屋の奥の長ソファーの真ん中に座り、左右に東野先輩と西原先輩が腰を下ろす。
それを見届けると、前の二人もそれぞれのソファーに腰を下ろした。
店長の方は物腰柔らかそうな笑みを浮かべているんだけど、YUKINOさんはさっきまでの和やかな会話から一転。じーっと真剣な顔でこっちを見ている。
何かを見定められてるみたいで、ちょっと緊張するな……。
「ええ、まずは店長である私から、今回のお話について確認させてもらいますね」
「お願いします」
「はい! お願いしまーっす!」
こっちの緊張を他所に、店長の言葉に元気な返事をする先輩達。
っていうか、東野先輩の元気すぎる声に、前の二人がくすくすっと笑ってるじゃないか。
でも、おかげで少し空気が和んだし、これは先輩様々かな。
「まず、このお店が女性服ブランドの店なのは知っていますよね?」
「はい!」
「そんなお店に、急に男子服のオーダーメイドを依頼したいっていう理由を、伺ってもよろしいですか?」
「はい! ハル君が着る服に困っててー。それで、ここにお願いしに来ました!」
表情は真剣ながら、元気に理由を話す東野先輩だけど……流石に端折りすぎじゃないか?
俺が思わず眉間に皺を寄せると。
「雨音。それじゃ説明不足でしょ。私が説明するわ」
西原先輩も同じ気持ちだったのか。彼女を制し、代わりに話し始めた。
「彼は高校生なんですが、見ての通り身長が低くて、私服に困っているんです。ですが、彼の住んでいる所を見ても、男子服のオーダーメイドを行っているお店もなくって。それで、女性服でオーダーメイドも扱っている、こちらにご相談に伺ったんです」
西原先輩の説明を聞いて、改めて店長とYUKINOさんがこっちを見る。
来た時点でもわかってると思うけど。今だって、俺の左右には百六十センチくらいある先輩達が座って、こっちの方が背が低いってのは明白。
「身長は百四十五センチ……ってところかしら」
「そうですね」
YUKINOさんが顎に手を当てながら、口にした身長はドンピシャ。
見ただけでわかるとか。やっぱり、プロのデザイナーさんは違うんだなぁ。
「ちなみに、このブランドで承っている、女性服のオーダーメイドの価格は知っていますか?」
「あ、いえ。すいません。そこまでは。雨音は?」
「ぜんぜーん。でもー、スタトルだからそれなりにお高いかなーって思ってますけど。合ってますか?」
「そうですね。物にもよりますけど、女性服の上下セットで安いセットでも、七、八万は」
「えーっ! そんなにするんですかー!?」
「はい。オプションなども指定すると、十万を下らない事もありますし」
最低七、八万、か。やっぱり結構するんだな。
そりゃ、両親もげんなりしてたわけだ。
先輩達は流石に驚きすぎて、それ以上の言葉がでない。
まあ、市販品しか買ったことがないんじゃ相場もわからないだろうし、二人が知っているくらいの有名ブランド。この価格も納得かな。
「もし男性服をオーダーメイドした場合、どれくらい価格が上乗せされますか?」
敢えてそう口にすると、店長が少し驚いた顔をする。
「ええっと……。こういったオーダーをお受けした事がないので推定ですが、デザイン料だったりも含めると、もう数万は……ですよね? 社長」
「そうね。特にあなたの場合、サイズも普段の男性の規格に合っていないから、完全なオーダーメイドになる可能性が高いわ。一着揃えるのも相当よ?」
俺の質問に、真摯に答えてくれたYUKINOさん。
数十万の買い物なんて、勿論今までにしたことなんてない。一応貰ってたお年玉やお小遣いを貯めてはあるけど、足りる気がしないな……。
「世の中には、ネットオーダーのお店なんかもあると思うのだけど。そっちを利用しない理由は?」
「できあがりまで、自身の目で確認できないのが不安だったからです」
「これだけ高いのだから、諦める選択もあると思うのだけど。それでも買いたいの?」
YUKINOさんの言葉の裏には、身の丈にあってないって意味が籠もってると思う。
確かに、たった一着じゃフルシーズン着こなすなんて無理。
それこそすぐ夏になるわけで。美桜とのデート一つのために、貯金を叩いてまでする買い物じゃない。そう言われたって仕方ないくらいの話だと思う。
だけど……それでも、俺はこう答えたんだ。
「……はい。可能であれば、このお店にオーダーメイドをお願いしたいです」
お客や商品を避けながら、レジカウンターの隣、オーダーメイドの受付まで向かった俺達。東野先輩がそこにいる店員さんに声を掛けると、大人びた女性がこちらに笑顔を向けてくれる。
「いらっしゃいませ。オーダーメイドのご要望でしょうか?」
「あ、えっとー。そうなんですけどー。ちょっと折り入って、相談したいことがあってー」
「はい。何でしょう?」
店員さんは笑顔を絶やさず話を聞いてくれている。
だけど。
「あの。男性服のオーダーメイドって、お願いする事はできませんか?」
「え?」
西原先輩が口にした言葉を聞いた瞬間、流石に驚いた顔をした。
「あの、大変申し訳ございません。こちらは女性服を専門に扱っておりまして……」
「それは重々承知なんですが。できればお話だけでも聞いてもらえませんか?」
「お願いします!」
東野先輩が勢いよく頭を下げるのに合わせ、俺も頭を下げる。
「うーん……」
店員さんの困った声が聞こえた後。
「少々、お待ち下さいね」
彼女が歩き去っていく音がした。
「……ね? どう? 迫真の演技だった?」
隣で頭を下げていた東野先輩が、姿勢をそのままにこっちを向き、ひそひそとそんな事を言う。
いや、演技も何も。頭を下げただけじゃないか……。
内心そう思ったけど、敢えてそこには触れず、
「そうですね」
短い言葉で話を合わせながら、俺は苦笑しながら頭を上げた。
彼女の隣では西原先輩が、何も言わずに呆れ笑いを浮かべてる。
まあ、東野先輩なりに頑張ってくれてるし、苦言を呈して気分を害してもいけないよな。
とはいえ。店員さんも困ってたし、やっぱり無理だろうなぁ。男子服は流石に畑が違うだろうし。
さっきの反応から半ば諦め気味でいると、少しして裏からさっきの店員さんが顔を出した。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「え?」
こちらへどうぞって事は、話を聞いてもらえるのか?
俺が驚き先輩達を見ると、西原先輩も意外だったのか。完全に虚を突かれぽかんとしている。
唯一、東野先輩だけはぱぁっと笑顔を輝かせると、すぐさま西原先輩の背後に回り込んだ。
「ありがとうございまーっす! 二人共、行こ行こっ!」
「え? あ、雨音!? 押さないの!」
「雫が遅いからだよー! ほらーっ! ハル君も早く早くー!」
「あ。は、はい」
戸惑う西原先輩の背を押し、強引に彼女と歩き始める東野先輩。
これには案内してくれた店員さんも、くすくすっと小さく笑っている。
ほんと。そんなに嬉しそうな反応をしたら、迫真の演技すら意味をなさないだろって……。
自然と肩を竦めた俺は、東野先輩にどやされる前に、彼女の後に続きバックヤードへと入って行った。
◆ ◇ ◆
短い廊下を進んだ先。『Reception room』と書かれた部屋のドアをノックした店員さん。
「はい」
「社長。店長。お客様をお連れしました」
へ? 社長?
店長ならわかるけど、社長って?
俺が困惑し先輩達を見ると、二人も驚いた顔をしている。
「社長って……もしかして……」
なんて東野先輩も呟いて──あれ? もしかしてって事は、二人はその人を知ってるのか?
「ありがとう。入ってもらって」
「はい。失礼します」
俺達の困惑なんて関係なしに、部屋の中からした女性の声。
その指示に従い、ドアを開けた店員さんが、俺達を見た。
「どうぞ。お話は中で」
「ありがとうございます」
ペコリと会釈し、先に部屋に入った先輩達に続き、中に入ろうとした瞬間。
「あーっ!」
「ぶほっ!」
急に止まった東野先輩の背中に、俺の顔がめり込んだ。
な、なんだ? 急に大きな声を出して。
ぶつけた鼻を押さえつつ、慌てて距離を空け二人を見ると、彼女達は部屋の奥を見て驚いている。
ただ、二人がちょうど壁になっていて、俺の身長じゃそっちを見る事ができない。
こういう時、この身長が恨めしくなるな……ってのは置いといて。一体、奥に誰がいたんだろう?
そんな俺の疑問に答えるかのように、西原先輩が驚きの声を口にした。
「もしかして、本物のYUKINOさんですか!?」
YUKINOさん?
知り合いってわけじゃなさそうだけど。有名人なんだろうか?
「あら。私を知っているの?」
「JKなら誰だって知ってますよー! スタトルの社長であり、新進気鋭の人気ファッションデザイナー! JKの心を掴む服を沢山デザインしている、あたし達の憧れの的ですもん!」
東野先輩が部屋の奥に向かい、興奮気味にそう話すと、奥からくすくすと笑い声がした後。
「そこまで言ってもらえるなんて光栄ね。ありがとう」
そんな優しい声が聞こえた。
「さて。まずはお話を聞きましょうか。こちらにどうぞ」
「はい! 失礼しまーす!!
社長と思われる声に促され、二人が部屋の奥に入って行く。それに続いて俺も部屋に入ると、手前の一人掛けソファーの所に、二人の女性が立っていた。
一人は、店に並んでいたような服で着飾った女性。
もう一人は、はっきりとブランド物っぽいレディーススーツを着こなしている女性。
多分、スーツの女性が社長のYUKINOさんって人かな。今までに見た事はないけど、なんか華やかなオーラがあるし。
「ハル君は真ん中ね! 早く早く!」
「あ、はい。失礼します」
東野先輩に促されるまま、俺は部屋の奥の長ソファーの真ん中に座り、左右に東野先輩と西原先輩が腰を下ろす。
それを見届けると、前の二人もそれぞれのソファーに腰を下ろした。
店長の方は物腰柔らかそうな笑みを浮かべているんだけど、YUKINOさんはさっきまでの和やかな会話から一転。じーっと真剣な顔でこっちを見ている。
何かを見定められてるみたいで、ちょっと緊張するな……。
「ええ、まずは店長である私から、今回のお話について確認させてもらいますね」
「お願いします」
「はい! お願いしまーっす!」
こっちの緊張を他所に、店長の言葉に元気な返事をする先輩達。
っていうか、東野先輩の元気すぎる声に、前の二人がくすくすっと笑ってるじゃないか。
でも、おかげで少し空気が和んだし、これは先輩様々かな。
「まず、このお店が女性服ブランドの店なのは知っていますよね?」
「はい!」
「そんなお店に、急に男子服のオーダーメイドを依頼したいっていう理由を、伺ってもよろしいですか?」
「はい! ハル君が着る服に困っててー。それで、ここにお願いしに来ました!」
表情は真剣ながら、元気に理由を話す東野先輩だけど……流石に端折りすぎじゃないか?
俺が思わず眉間に皺を寄せると。
「雨音。それじゃ説明不足でしょ。私が説明するわ」
西原先輩も同じ気持ちだったのか。彼女を制し、代わりに話し始めた。
「彼は高校生なんですが、見ての通り身長が低くて、私服に困っているんです。ですが、彼の住んでいる所を見ても、男子服のオーダーメイドを行っているお店もなくって。それで、女性服でオーダーメイドも扱っている、こちらにご相談に伺ったんです」
西原先輩の説明を聞いて、改めて店長とYUKINOさんがこっちを見る。
来た時点でもわかってると思うけど。今だって、俺の左右には百六十センチくらいある先輩達が座って、こっちの方が背が低いってのは明白。
「身長は百四十五センチ……ってところかしら」
「そうですね」
YUKINOさんが顎に手を当てながら、口にした身長はドンピシャ。
見ただけでわかるとか。やっぱり、プロのデザイナーさんは違うんだなぁ。
「ちなみに、このブランドで承っている、女性服のオーダーメイドの価格は知っていますか?」
「あ、いえ。すいません。そこまでは。雨音は?」
「ぜんぜーん。でもー、スタトルだからそれなりにお高いかなーって思ってますけど。合ってますか?」
「そうですね。物にもよりますけど、女性服の上下セットで安いセットでも、七、八万は」
「えーっ! そんなにするんですかー!?」
「はい。オプションなども指定すると、十万を下らない事もありますし」
最低七、八万、か。やっぱり結構するんだな。
そりゃ、両親もげんなりしてたわけだ。
先輩達は流石に驚きすぎて、それ以上の言葉がでない。
まあ、市販品しか買ったことがないんじゃ相場もわからないだろうし、二人が知っているくらいの有名ブランド。この価格も納得かな。
「もし男性服をオーダーメイドした場合、どれくらい価格が上乗せされますか?」
敢えてそう口にすると、店長が少し驚いた顔をする。
「ええっと……。こういったオーダーをお受けした事がないので推定ですが、デザイン料だったりも含めると、もう数万は……ですよね? 社長」
「そうね。特にあなたの場合、サイズも普段の男性の規格に合っていないから、完全なオーダーメイドになる可能性が高いわ。一着揃えるのも相当よ?」
俺の質問に、真摯に答えてくれたYUKINOさん。
数十万の買い物なんて、勿論今までにしたことなんてない。一応貰ってたお年玉やお小遣いを貯めてはあるけど、足りる気がしないな……。
「世の中には、ネットオーダーのお店なんかもあると思うのだけど。そっちを利用しない理由は?」
「できあがりまで、自身の目で確認できないのが不安だったからです」
「これだけ高いのだから、諦める選択もあると思うのだけど。それでも買いたいの?」
YUKINOさんの言葉の裏には、身の丈にあってないって意味が籠もってると思う。
確かに、たった一着じゃフルシーズン着こなすなんて無理。
それこそすぐ夏になるわけで。美桜とのデート一つのために、貯金を叩いてまでする買い物じゃない。そう言われたって仕方ないくらいの話だと思う。
だけど……それでも、俺はこう答えたんだ。
「……はい。可能であれば、このお店にオーダーメイドをお願いしたいです」