高校の入学式。
校門前にあった入学式の看板の前で、久々に同じ写真に収まった緊張気味のハル君は、やっぱり格好よかった。
少しボサボサっとした、だけどハル君らしい快活さを感じさせる黒髪。
凛々しいってわけじゃないけど、ずっと見てきたからこそ、どこか生意気さを感じる顔立ちも、とっくにあたしの理想系。
正直、同じ高校に行けるのは嬉しくもある。
だけど……。
入学式を終えた夜。
お風呂を済ませパジャマに着替えたあたしは、ベッドに横になりながら手にしていた写真立てをベッドボードに戻すと、大きなため息を漏らす。
あたし、小杉美桜はハル君こと、大瀬陽翔が好き。ううん。大好き。
ハル君はあたしの幼馴染。
家がお隣どうだったから、物心が付いた時には一緒に遊んだり、家族ぐるみで出掛けたりなんかもしてて、お互い仲は良かったと思う。
小さい頃からハル君はほんと元気で、生意気で、ちょっとおっちょこちょい。
でも、泣き虫だったあたしを慰めてくれたり、お母さんに怒られる所を助けてくれたりもしてくれて。気づいたら、あたしはハル君のお嫁さんになりたいって思ってた。
それが、あたしの早すぎる初恋であり、恋心は今でも変わってない。
ハル君に相応しい女の子になりたい。
ハル君とずっと一緒にいたい。
いつしか、それはあたしの夢になった。
髪が綺麗だねって言ってくれたから、少しずつ髪を肩まで伸ばし、しっかり手入れしてきたし。中学に入る頃には、お肌のケアも欠かさず頑張って、女の子らしくなろうって頑張ってきた。
毎年ハル君と一緒に行く初詣でも、ずっと一緒にいられるようにって、一生懸命お祈りして。効果があったのか。無事に同じ高校にも進学できたけど……。
あたしはまたため息を漏らすと、改めて写真立てを手にして、二人が収まっている写真を見た。
入学式の看板を挟んで左右に立つ、あたしとハル君。
他人が見たら、きっと笑われそうなその一枚には、あたし達の非情な現実が写っている。
……なんであたし、こんなに背が伸びてるのよ。
あからさまに、彼より大きい自分の姿。
隣でハル君を見る時だって、見下ろす羽目になって辛いのに。写真で見ると身長差がより強調されてて、一層悲しくなる。
あたしの身長は、百八十五センチ。
女子どころか、男子の平均すらあっさり抜き去るくらいに成長した自分の姿は、あたしの一番のコンプレックス。
中学校に入ったくらいから、何故か一気に身長が伸びちゃって、中三の頃に男子に付けられたあだ名は『プチ八尺様』。
いや、プチって何よ。プチって。まあ、普通に八尺様って呼ばれたって、絶対ムカつくけど。
あの時も、ハル君はそう言って馬鹿にしてきた男子に怒ってくれたし、あたしに「気にすんなよ」って慰めてくれて、やっぱり格好良いなって思ったけど。
同時に、ハル君もこんな悩みを持ってるんだよねって、ちょっと悲しい気持ちになる。
写真に写るハル君は、身長が高いあたしと比べたら、やっぱり小さい。
でも、それはただ小さいんじゃない。凄く小さいの。
あたしと彼の身長差は、なんと四十センチ。
つまり、ハル君の身長は男子の平均を遥かに下回る、百四十五センチしかない。
彼の身長が伸び悩み始めたのは、私と同じく中学校に入ってから。
ぴたりと身長が伸びなくなって、クラスで列を作る時は常に一番前。
一時は『チビ猿』なんて酷い呼ばれた方をしたのも、ある意味あたしに似てる。
で。一気にあたしと身長差が開いたせいかもしれないけど。中学二年くらいからかな。ハル君が、学校でも少し余所余所しくなった気がするの。
その頃にはあだ名で呼ぶ子もいなくなって、お互いに同性の友達もいたから、それぞれ友達とよく遊んでたっていえば、そうなんだけど。
高校受験の時。近くの高校に行くと思ってたハル君が、まさか電車で一時間も掛かる高校を受験するなんて、思ってもみなかった。
千景おばさんが教えてくれなかったら、あたしはきっと同じ学校に行けなかったかも……。
あ。千景おばさんっていうのは、ハル君のお母さんね。
凄い気さくで優しいんだけど、同時にあたしの恋心も知ってて、ハル君に内緒でこっそり応援してくれてる。
でも、そんな千景おばさんも、ハル君が今の高校を受験した理由、教えてもらえなかったんだって。
自分のお母さんにも理由を言わない。
それって、あたしに漏れたらいけない理由が含まれてるんじゃって、実はずっと不安。
……もしかして、あたしの事避けてるのかな。
やっぱり、大きい女の子と一緒なのは嫌なのかな……って、不安な気持ちが大きくなる。
一応、今日の入学式の帰りにハル君家の車に一緒に乗せてもらって、みんなで帰ってる途中。
──「明日からも、一緒に学校に行こうね」
そう伝えたら、隣に座ったハル君は笑顔で頷いてくれた。
だから杞憂だって信じたい。信じたいけど……って。もうっ。考え過ぎちゃ駄目。
これからも、ハル君と一緒に学校に行けるんだから。素直に喜ばなきゃ。
そう、自分を励ましてみるけれど。
四十センチの身長差のせいで、大きい身長に似合わないくらい、あたしの自信は小さく萎んじゃって。
不安になってはため息を吐くのを繰り返している内に、気づけば夜も随分更けて。
──翌朝。
あたしは思いっきり寝坊した。
校門前にあった入学式の看板の前で、久々に同じ写真に収まった緊張気味のハル君は、やっぱり格好よかった。
少しボサボサっとした、だけどハル君らしい快活さを感じさせる黒髪。
凛々しいってわけじゃないけど、ずっと見てきたからこそ、どこか生意気さを感じる顔立ちも、とっくにあたしの理想系。
正直、同じ高校に行けるのは嬉しくもある。
だけど……。
入学式を終えた夜。
お風呂を済ませパジャマに着替えたあたしは、ベッドに横になりながら手にしていた写真立てをベッドボードに戻すと、大きなため息を漏らす。
あたし、小杉美桜はハル君こと、大瀬陽翔が好き。ううん。大好き。
ハル君はあたしの幼馴染。
家がお隣どうだったから、物心が付いた時には一緒に遊んだり、家族ぐるみで出掛けたりなんかもしてて、お互い仲は良かったと思う。
小さい頃からハル君はほんと元気で、生意気で、ちょっとおっちょこちょい。
でも、泣き虫だったあたしを慰めてくれたり、お母さんに怒られる所を助けてくれたりもしてくれて。気づいたら、あたしはハル君のお嫁さんになりたいって思ってた。
それが、あたしの早すぎる初恋であり、恋心は今でも変わってない。
ハル君に相応しい女の子になりたい。
ハル君とずっと一緒にいたい。
いつしか、それはあたしの夢になった。
髪が綺麗だねって言ってくれたから、少しずつ髪を肩まで伸ばし、しっかり手入れしてきたし。中学に入る頃には、お肌のケアも欠かさず頑張って、女の子らしくなろうって頑張ってきた。
毎年ハル君と一緒に行く初詣でも、ずっと一緒にいられるようにって、一生懸命お祈りして。効果があったのか。無事に同じ高校にも進学できたけど……。
あたしはまたため息を漏らすと、改めて写真立てを手にして、二人が収まっている写真を見た。
入学式の看板を挟んで左右に立つ、あたしとハル君。
他人が見たら、きっと笑われそうなその一枚には、あたし達の非情な現実が写っている。
……なんであたし、こんなに背が伸びてるのよ。
あからさまに、彼より大きい自分の姿。
隣でハル君を見る時だって、見下ろす羽目になって辛いのに。写真で見ると身長差がより強調されてて、一層悲しくなる。
あたしの身長は、百八十五センチ。
女子どころか、男子の平均すらあっさり抜き去るくらいに成長した自分の姿は、あたしの一番のコンプレックス。
中学校に入ったくらいから、何故か一気に身長が伸びちゃって、中三の頃に男子に付けられたあだ名は『プチ八尺様』。
いや、プチって何よ。プチって。まあ、普通に八尺様って呼ばれたって、絶対ムカつくけど。
あの時も、ハル君はそう言って馬鹿にしてきた男子に怒ってくれたし、あたしに「気にすんなよ」って慰めてくれて、やっぱり格好良いなって思ったけど。
同時に、ハル君もこんな悩みを持ってるんだよねって、ちょっと悲しい気持ちになる。
写真に写るハル君は、身長が高いあたしと比べたら、やっぱり小さい。
でも、それはただ小さいんじゃない。凄く小さいの。
あたしと彼の身長差は、なんと四十センチ。
つまり、ハル君の身長は男子の平均を遥かに下回る、百四十五センチしかない。
彼の身長が伸び悩み始めたのは、私と同じく中学校に入ってから。
ぴたりと身長が伸びなくなって、クラスで列を作る時は常に一番前。
一時は『チビ猿』なんて酷い呼ばれた方をしたのも、ある意味あたしに似てる。
で。一気にあたしと身長差が開いたせいかもしれないけど。中学二年くらいからかな。ハル君が、学校でも少し余所余所しくなった気がするの。
その頃にはあだ名で呼ぶ子もいなくなって、お互いに同性の友達もいたから、それぞれ友達とよく遊んでたっていえば、そうなんだけど。
高校受験の時。近くの高校に行くと思ってたハル君が、まさか電車で一時間も掛かる高校を受験するなんて、思ってもみなかった。
千景おばさんが教えてくれなかったら、あたしはきっと同じ学校に行けなかったかも……。
あ。千景おばさんっていうのは、ハル君のお母さんね。
凄い気さくで優しいんだけど、同時にあたしの恋心も知ってて、ハル君に内緒でこっそり応援してくれてる。
でも、そんな千景おばさんも、ハル君が今の高校を受験した理由、教えてもらえなかったんだって。
自分のお母さんにも理由を言わない。
それって、あたしに漏れたらいけない理由が含まれてるんじゃって、実はずっと不安。
……もしかして、あたしの事避けてるのかな。
やっぱり、大きい女の子と一緒なのは嫌なのかな……って、不安な気持ちが大きくなる。
一応、今日の入学式の帰りにハル君家の車に一緒に乗せてもらって、みんなで帰ってる途中。
──「明日からも、一緒に学校に行こうね」
そう伝えたら、隣に座ったハル君は笑顔で頷いてくれた。
だから杞憂だって信じたい。信じたいけど……って。もうっ。考え過ぎちゃ駄目。
これからも、ハル君と一緒に学校に行けるんだから。素直に喜ばなきゃ。
そう、自分を励ましてみるけれど。
四十センチの身長差のせいで、大きい身長に似合わないくらい、あたしの自信は小さく萎んじゃって。
不安になってはため息を吐くのを繰り返している内に、気づけば夜も随分更けて。
──翌朝。
あたしは思いっきり寝坊した。