────ガシャンッ

 大きな音を立てて目の前で割れ散った花瓶とお花を見て青ざめる。────やらかした。
私立聖柳学園(せいりゅうがくえん)入学式。
 ここが名だたる一流名家が集まる歴史的伝統高校というのは有名な話。
 ひと学年15クラスのうちのひとつ、一般クラスとは別枠に、”特待クラス”が設けられているからだ。
 そこに入れるのは成績優秀者、というのは建前で。
 国内トップクラスの大金持ち────政治家の子供や有名企業の跡取り息子、老舗の呉服屋や花道茶道の名家────とまあ、ありとあらゆる将来の有望株のみしか足を踏み入れられない特別なクラスが各学年に存在する。
 中でも高等部3年生特待クラスは別格で、毎年ひと学年10人にも満たない者しか選ばれず────もちろん今年もそれは例外ではない。
 そんな特殊な高等部3年特待クラスから、毎年入学式の新入生歓迎挨拶を行う”最優秀者”が選ばれる。
 そしてわたしは、そんな今年の”最優秀者”である華道一流名家の藤沢 睦(ふじさわ むつみ)先輩がこの日のために為に()けた生花(いけばな)を、あろうことか思いっきり、舞台の上でぶちまけた。そして、まさに今から登壇しようとしていた藤沢先輩の新入生歓迎挨拶もすべて水の泡。

 それが、私 北森うた の高等部1年、入学式の日の話。