翌日――。
「乃絵お嬢様。九朗様が……」
「はあ? 何?」
朝起きて早々、また女中が申し訳なさそうにやってきた。
「起きてくださらないんです……」
「そんなの、布団を引き剥がしたらいいでしょ!」
「旦那様が連れていらした剣士様にそんなこと、私たちではとても……」
女中がちらちらと乃絵の機嫌を伺ってくる。
完全に九朗の世話係に任命されている。
「わかったわ。私がいく!」
乃絵はずかずかと榊の間に行った。
「九朗くん? 入るわよ?」
もちろん返事はない。
(もう!)
舌打ちをこらえ、乃絵はドアを開けた。
布団のなかで、すやすやと寝ている九朗が目に入る。
「九朗くん!! 起きて!!」
「う……ん……」
九朗は寝返りを打つばかりで一向に起きる気配がない。
「起きろーーーーー!!」
堪忍袋の緒が切れた乃絵は布団の端をつかんで思い切り引っ張った。
ゴロゴロと九朗の体が転がり出てくる。
「あ、おはよう、乃絵さん……」
九朗が目をごしごしこすりながら挨拶をしてくる。
寝乱れた浴衣姿から目をそらし、乃絵は叫んだ。
「朝ご飯の用意できてるから! 私の手作りだから! 食べないと許さないから!」
「はい……」
九朗が立ち上がり、よろけながら歩いてくる。
(この人……本当に強い剣士様なの?)
乃絵はよろよろと歩き出す九朗をじっと睨んだ。
*
なんとか尽きっきりで朝ご飯を食べさせ、九朗に制服に着替えるように命じた乃絵は、朝だというのにすっかり疲れ果てていた。
(手間がかかる!)
智之がネクタイを締めながら乃絵に微笑みかける。
「昨日は私が送っていったが、今日は乃絵が一緒に学校に連れていってやってくれ。隣だろう?」
父の言葉に、乃絵は引きつった笑みを浮かべた。
「はいはい! 連れていきますよ!」
こうなったら徹底的に付き合ってやる。
(子どもを育てる練習だと思って! 月哉様似の男の子がほしいなあ……)
無理矢理ポジディブな想像をして、乃絵はなんとか苛立ちを押さえた。
乃絵は女学校の制服である袴に着替えると、玄関ホールで九朗を待った。
「あ……」
階段を下りてきた九朗に、乃絵は一瞬で目を奪われた。
詰め襟の制服を着た九朗は、先程とはまるで別人のように姿勢良くきびきびと歩いている。
(えっ……全然顔つきが違う)
九朗の腰には日本刀が吊されてある。
おそらくはそのせいだろう。
日本刀を携えると、気が引き締まるのだ。
(この人、生粋の剣士なんだ……)
「いくぞ、乃絵さん」
「いくぞじゃないわよ! はい、お弁当!」
乃絵はぐいっとお弁当の包みを九朗に押しつける。
なんとなく、九朗に見とれてしまったのが悔しい。
(刀がない時はダメ人間なのに!)
「私が作ったの! 今日はちゃんと食べるのよ。食べないと承知しないから!」
乃絵の迫力に押されるように、九朗がうなずく。
「わ、わかった……」
「……信用ならないわね」
乃絵はもう既に九朗の性格を把握していた。
乃絵は一計を案じることにした。
「乃絵お嬢様。九朗様が……」
「はあ? 何?」
朝起きて早々、また女中が申し訳なさそうにやってきた。
「起きてくださらないんです……」
「そんなの、布団を引き剥がしたらいいでしょ!」
「旦那様が連れていらした剣士様にそんなこと、私たちではとても……」
女中がちらちらと乃絵の機嫌を伺ってくる。
完全に九朗の世話係に任命されている。
「わかったわ。私がいく!」
乃絵はずかずかと榊の間に行った。
「九朗くん? 入るわよ?」
もちろん返事はない。
(もう!)
舌打ちをこらえ、乃絵はドアを開けた。
布団のなかで、すやすやと寝ている九朗が目に入る。
「九朗くん!! 起きて!!」
「う……ん……」
九朗は寝返りを打つばかりで一向に起きる気配がない。
「起きろーーーーー!!」
堪忍袋の緒が切れた乃絵は布団の端をつかんで思い切り引っ張った。
ゴロゴロと九朗の体が転がり出てくる。
「あ、おはよう、乃絵さん……」
九朗が目をごしごしこすりながら挨拶をしてくる。
寝乱れた浴衣姿から目をそらし、乃絵は叫んだ。
「朝ご飯の用意できてるから! 私の手作りだから! 食べないと許さないから!」
「はい……」
九朗が立ち上がり、よろけながら歩いてくる。
(この人……本当に強い剣士様なの?)
乃絵はよろよろと歩き出す九朗をじっと睨んだ。
*
なんとか尽きっきりで朝ご飯を食べさせ、九朗に制服に着替えるように命じた乃絵は、朝だというのにすっかり疲れ果てていた。
(手間がかかる!)
智之がネクタイを締めながら乃絵に微笑みかける。
「昨日は私が送っていったが、今日は乃絵が一緒に学校に連れていってやってくれ。隣だろう?」
父の言葉に、乃絵は引きつった笑みを浮かべた。
「はいはい! 連れていきますよ!」
こうなったら徹底的に付き合ってやる。
(子どもを育てる練習だと思って! 月哉様似の男の子がほしいなあ……)
無理矢理ポジディブな想像をして、乃絵はなんとか苛立ちを押さえた。
乃絵は女学校の制服である袴に着替えると、玄関ホールで九朗を待った。
「あ……」
階段を下りてきた九朗に、乃絵は一瞬で目を奪われた。
詰め襟の制服を着た九朗は、先程とはまるで別人のように姿勢良くきびきびと歩いている。
(えっ……全然顔つきが違う)
九朗の腰には日本刀が吊されてある。
おそらくはそのせいだろう。
日本刀を携えると、気が引き締まるのだ。
(この人、生粋の剣士なんだ……)
「いくぞ、乃絵さん」
「いくぞじゃないわよ! はい、お弁当!」
乃絵はぐいっとお弁当の包みを九朗に押しつける。
なんとなく、九朗に見とれてしまったのが悔しい。
(刀がない時はダメ人間なのに!)
「私が作ったの! 今日はちゃんと食べるのよ。食べないと承知しないから!」
乃絵の迫力に押されるように、九朗がうなずく。
「わ、わかった……」
「……信用ならないわね」
乃絵はもう既に九朗の性格を把握していた。
乃絵は一計を案じることにした。