取材をさせてもらっている身でこんなことを言うのもおかしいと思うが、本当にこのことを公の場で発信してしまっても良いのかと管理人に再度確認をした。アパートの不穏な秘密を暴いてしまうことでアパートの入居希望者が激減し、存続に関わる可能性があるからだ。
 すると管理人から思いもよらぬ答えをいただいたのでぜひ確認してしてもらいたい。

 以下、管理人へのインタビューをそのまま書き起こしたものである。
 ※自分「」 管理人『』

「どうやらこのアパートには大っぴらにしていない曰くがあるようですが……なぜ取材を受けてくださったのですか?」
『その方が事情を知った人が来てくれるから手っ取り早いかなと思ったんです』
「手っ取り早い?」
『はい。彼女の存在を受け入れた人が住んでくれるのなら、何も知らない誰かが入居するより彼女が満足する人に出会う確率は上がるでしょう?』
「その彼女とは、手記の中にあるあの女と呼ばれる存在のことでしょうか」
『はい、その通りです』
「では一体、彼女が満足する人とは、具体的にどのような人のことを指すのでしょう?」
『彼女のことを受け入れ、自分と一つとなってここから連れ出してくれる人のことです。彼女は、ずっと待っているんです。かつてずっと一緒だと約束し、けれど置き去りにされた男のことを。彼女のあの言葉は愛の言葉です』
「あの言葉とは?」
『“おまえの顔、覚えたからな”です。彼女は王子様がやって来るのをずっと待っているのですよ。何度も何度も、その王子様の顔を上書きしながら。実際私は言われたことがありませんので、気に入った男の前にしか現れないのでしょうね』
「……なるほど。全員が全員彼女の目に留まる訳ではないと」
『はい。ですので、このような事件が起こってしまったのは初めてのことで……よほど結びつく何かがあったのでしょう。そうなるとこちらも今までのようにはいかなくなりますので、今回の取材を通して周知されることは良い機会だと思いました』
「では、取材を通して伝えたいことがあればぜひ」
『事故物件、曰く付きを気にしなければ立地の良い格安物件です。こちらからも出来る限りのサポートはさせていただきます。我こそはという方、ぜひいらして下さい。彼女と共に連れ出してくれる方がいらっしゃるのを心よりお待ちしております。ただし、何があっても当方責任を負いかねますので、全て自己責任であることを承知の上、お越しくださいね。では、良い記事にしてくださることを期待しています』
「はい、尽力いたします。それでは、本日はお忙しいなかお時間をいただき、誠にありがとうございました」
『ありがとうございました』


 以上が◻︎◻︎県××市内⚪︎⚪︎⚪︎アパートについての取材内容の全てである。
 一年前、最終的に女性の自殺として報道されたこのアパートでの事件。今回の取材を通して自分から言えるのは、ここで起こった事件は単なる私情のもつれによる自殺などではなく、この物件の曰くに影響されたもので、この物件の曰くは本物であるということと、すべて自己責任だと承知の上、愛情深い彼女が欲しい猛者がいるのであればこの物件はおすすめであるということである。興味のある方はぜひ、070ー××××ー▪︎▪︎▪︎▪︎まで連絡してみて欲しい。
 あなたの知っている現実の裏側で、知らない何かがあなたを待っている。彼女があなたの前に現れるかどうか、それは全てあなたの行動と彼女の気分次第だ。