せつなの声は、次第に遠ざかるように小さくなっていく。その別れの言葉を待っていたのか、再び中庭に降り注ぐ光が強く眩しくなった。
やがて、せつなの周りに咲き誇っていたスターチスの花々が金色の光に飲み込まれ始める。激しい光に思わずまた目を細めるが、浩志と優は、少しでも長くせつなの姿をその目に焼き付けようと、光に抗うように友人の姿を見つめ続けた。
澄んだ空の色との境界がなくなるほどにひと際強い光が中庭を包む。いつしかせつなの姿は光の中に溶けるかのように見えなくなった。浩志と優は、知らぬ間に手を繋いでいた。
ようやく光が収まると、皆は互いにぼんやりと顔を見合わせあう。
「懐かしいわね、この花壇。三人揃ったから、ついつい見に来ちゃったわね」
大人たちはどこか夢心地のまま、ぼんやりとした表情で昔を懐かしむように花壇を見やり、楽しそうに昔話に花を咲かせながら中庭を後にした。
残された浩志と優は、まだぼんやりと花壇を見つめている。その花壇には、成長速度を間違えたのか、明らかに他よりも早く成長したであろう花が咲いていた。
その場に居た園芸部員が、訳知り顔で花壇から二本の花を摘み取る。
「はい。あの子の願いだからね。このスターチスを君たちに渡しておくよ」
差し出された花を、浩志は不思議そうに見る。
「これは?」
「う~ん。言うなれば、記憶の結晶……いや、あの子との絆の結晶かな。あの子との記憶は、もうすぐ、きみたちの心の深部に封印される。出会うはずのない出会いだったからね。きみたちの心の均衡を守るためには、仕方のないことなんだよ。でも、この花がきっとまたきみたちを結び付けてくれる。だから、大切に持っていて。あの子が言ったように、いつか再会できるそのときまでね」
浩志と優は、園芸部員の言葉を聞きながら、まじまじと花を見つめた。
『変わらぬ心』『変わらない誓い』『途絶えぬ記憶』
不意に浩志の胸に、3つの言葉が浮かぶ。
「俺、この花好きだな」
「私も」
ポツリとこぼした浩志の言葉に、優が静かに同調する。
そんな二人に温かな笑みを送り、園芸部員はそっとその場を去っていった。
あとに残された浩志と優は、それからしばらくの間、暖かな風を肌に感じながらぼんやりと緑の絨毯が広がる中庭を眺めていた。時折、彼らが手にしたスターチスの花が、風に頬を撫でられ嬉しそうにその身を揺らしていた。
やがて、せつなの周りに咲き誇っていたスターチスの花々が金色の光に飲み込まれ始める。激しい光に思わずまた目を細めるが、浩志と優は、少しでも長くせつなの姿をその目に焼き付けようと、光に抗うように友人の姿を見つめ続けた。
澄んだ空の色との境界がなくなるほどにひと際強い光が中庭を包む。いつしかせつなの姿は光の中に溶けるかのように見えなくなった。浩志と優は、知らぬ間に手を繋いでいた。
ようやく光が収まると、皆は互いにぼんやりと顔を見合わせあう。
「懐かしいわね、この花壇。三人揃ったから、ついつい見に来ちゃったわね」
大人たちはどこか夢心地のまま、ぼんやりとした表情で昔を懐かしむように花壇を見やり、楽しそうに昔話に花を咲かせながら中庭を後にした。
残された浩志と優は、まだぼんやりと花壇を見つめている。その花壇には、成長速度を間違えたのか、明らかに他よりも早く成長したであろう花が咲いていた。
その場に居た園芸部員が、訳知り顔で花壇から二本の花を摘み取る。
「はい。あの子の願いだからね。このスターチスを君たちに渡しておくよ」
差し出された花を、浩志は不思議そうに見る。
「これは?」
「う~ん。言うなれば、記憶の結晶……いや、あの子との絆の結晶かな。あの子との記憶は、もうすぐ、きみたちの心の深部に封印される。出会うはずのない出会いだったからね。きみたちの心の均衡を守るためには、仕方のないことなんだよ。でも、この花がきっとまたきみたちを結び付けてくれる。だから、大切に持っていて。あの子が言ったように、いつか再会できるそのときまでね」
浩志と優は、園芸部員の言葉を聞きながら、まじまじと花を見つめた。
『変わらぬ心』『変わらない誓い』『途絶えぬ記憶』
不意に浩志の胸に、3つの言葉が浮かぶ。
「俺、この花好きだな」
「私も」
ポツリとこぼした浩志の言葉に、優が静かに同調する。
そんな二人に温かな笑みを送り、園芸部員はそっとその場を去っていった。
あとに残された浩志と優は、それからしばらくの間、暖かな風を肌に感じながらぼんやりと緑の絨毯が広がる中庭を眺めていた。時折、彼らが手にしたスターチスの花が、風に頬を撫でられ嬉しそうにその身を揺らしていた。



