雲が風に流されたのか、中庭に降り注ぐ光は次第に強く眩しくなり、やがて、そこらじゅうの花壇が金色に包まれた。照り返す光に思わず誰もが目を細める。
不意に、誰かの声が響いた。耳にではなく、直接頭の中に響くような声だ。
“そろそろ時間です。いいですか?”
その声で、その場にいる誰もが、この光景を目に焼き付けようとしたが、今はもう光が全てを飲み込まんとするかのように眩しさを増していて、もう誰もしっかりと目を開けることができないでいた。
「もうちょっと。あと少しだけ待ってください」
光の中、せつなの声が鋭く響く。その言葉が光を振り払ったのか、痛いくらいに眩しさを放っていた光が幾分弱まる。やがて、目を開けられるほどの光量になったと感じ、皆がそっと目を開けると、満足そうな笑顔のせつなが、満開のスターチスの中に佇んでいた。
「せつな……」
「お姉ちゃん、俊ちゃん、正人くん。元気で。せつなの分まで長生きしてね」
姉の嬉しそうな声と、唐突なせつなの別れの言葉が重なる。姉妹はしっかりと視線を交わす。せつなは、急くように次の言葉を紡いだ。
「優ちゃん。お姉ちゃんみたいにせつなを優しく包んでくれてありがとう。大好きだよ。今度は、せつなが優ちゃんを包むよ。優ちゃんの想いが誰かさんに届くことを、空の上から祈ってるから」
「うぅ」
ずっと泣き続ける優は、もう言葉が出ないでいる。
「成瀬くん。いっぱい力になってくれてありがとう。頼もしかった。もっともっと頼られる人になってね。それから、待たせ過ぎは良くないよ? 早く自分の気持ちに気付いてあげて」
「なんだそれ。どういう意味だよ、せつな? 俺バカだから、ちゃんと言ってくれないと分からないよ」
浩志も、もう止まらない涙をぽたぽたと地面にしみ込ませ、鼻を盛大に啜っている。
せつなは、泣き止まない二人の友人を少し困ったように見る。それから、あることを閃いたのか、少し離れた場所で成り行きを見守っていた園芸部員に声をかけた。
「センパーイ。スターチスが咲いたらさ、この泣き虫な二人の友だちに渡してほしいの。お願いできる?」
「うん。いいよ」
不思議な光景の中、一人動じることなくそっと脇に控えていた上級生は、せつなの願いを快く引き受けてくれた。
「ねぇ。そんなに泣かないで。また、みんなで会えるよ。そんな気がするの。せつなは、また二人に絶対会いに来るから。スターチスの花に誓うよ。だから、それまで元気でいてね」
不意に、誰かの声が響いた。耳にではなく、直接頭の中に響くような声だ。
“そろそろ時間です。いいですか?”
その声で、その場にいる誰もが、この光景を目に焼き付けようとしたが、今はもう光が全てを飲み込まんとするかのように眩しさを増していて、もう誰もしっかりと目を開けることができないでいた。
「もうちょっと。あと少しだけ待ってください」
光の中、せつなの声が鋭く響く。その言葉が光を振り払ったのか、痛いくらいに眩しさを放っていた光が幾分弱まる。やがて、目を開けられるほどの光量になったと感じ、皆がそっと目を開けると、満足そうな笑顔のせつなが、満開のスターチスの中に佇んでいた。
「せつな……」
「お姉ちゃん、俊ちゃん、正人くん。元気で。せつなの分まで長生きしてね」
姉の嬉しそうな声と、唐突なせつなの別れの言葉が重なる。姉妹はしっかりと視線を交わす。せつなは、急くように次の言葉を紡いだ。
「優ちゃん。お姉ちゃんみたいにせつなを優しく包んでくれてありがとう。大好きだよ。今度は、せつなが優ちゃんを包むよ。優ちゃんの想いが誰かさんに届くことを、空の上から祈ってるから」
「うぅ」
ずっと泣き続ける優は、もう言葉が出ないでいる。
「成瀬くん。いっぱい力になってくれてありがとう。頼もしかった。もっともっと頼られる人になってね。それから、待たせ過ぎは良くないよ? 早く自分の気持ちに気付いてあげて」
「なんだそれ。どういう意味だよ、せつな? 俺バカだから、ちゃんと言ってくれないと分からないよ」
浩志も、もう止まらない涙をぽたぽたと地面にしみ込ませ、鼻を盛大に啜っている。
せつなは、泣き止まない二人の友人を少し困ったように見る。それから、あることを閃いたのか、少し離れた場所で成り行きを見守っていた園芸部員に声をかけた。
「センパーイ。スターチスが咲いたらさ、この泣き虫な二人の友だちに渡してほしいの。お願いできる?」
「うん。いいよ」
不思議な光景の中、一人動じることなくそっと脇に控えていた上級生は、せつなの願いを快く引き受けてくれた。
「ねぇ。そんなに泣かないで。また、みんなで会えるよ。そんな気がするの。せつなは、また二人に絶対会いに来るから。スターチスの花に誓うよ。だから、それまで元気でいてね」



