「忘れるわけないよ。だってあの日、私がもっと注意していれば、せつなは今頃……」
姉は後悔を口にする。しかし、せつなは首を振ってそれを否定した。
「お姉ちゃん。違うよ。せつながわがままを言ったのが悪いの。お姉ちゃんのせいじゃない。お姉ちゃんは、せつなに素敵な思い出をくれた。病院にばかりいたせつなに、お姉ちゃんは大切な思い出を作ってくれたんだよ。せつなの大切な思い出を、お姉ちゃんに悔いてほしくない。あの日のことは、お姉ちゃんにも大切な思い出にしてほしいの。お願い」
瞳に涙をためてせつなの思いを聞いていた蒼井は、口を引き結び手の甲で涙を拭う。そして、決心したように強く頷いた。
「ごめんね。せつな。本当はずっと後悔してた。でも、もうあの日を悔いたりしない。だって、あなたの思いをここに受け取ったから」
無意識のうちに触っていた左手に填まるおもちゃの指輪をじっとみつめる。それから、真剣な眼差しを目に映らぬ妹に向けた。
その時、花散らしの風が、どこからか桜の花びらを運んできた。中庭に小さなつむじ風が巻き起こる。蒼井は、その中に肩ほどまである髪を2つに分けて縛り、大きめの真新しい制服を身に纏ったせつなの姿を見たような気がした。
つむじ風がどこかへふわりと去っていき、あとには、桜の花びらが残されているのみだった。やはり、そこにせつなの姿は見えなかった。しかし、姉は確かに妹がそこに居るのを感じていた。
蒼井は浩志と優の側へ近づくと、足元の桜の花びらをそっと拾い上げる。手にした桜の花びらが妹の一部であるかのように、慈しみ優しく握りしめる。そして目を瞑り、まるで手の中のそれに誓いをたてるようにそっと囁いた。
「あのね、スターチスの花言葉は『変わらぬ心』『変わらない誓い』『途絶えぬ記憶』って言うの。お姉ちゃんは、スターチスに誓うわ。せつなとの大切な思い出を絶対に忘れたりしない。いつも、心の中で大切に思っているから」
ゆっくりと両手を開き、手の中の小さな妹を愛おしげに見つめる。そんな姉の頬を撫でるように暖かな風が吹き過ぎた。その風にさらわれるようにして、手の中の花びらはふわりと舞い上がる。そして、そのまま風に流され空高く去っていく。その場にいた全員が無言のまま、去っていく花びらに目を奪われていると、やがて花びらは、空に溶けるように見えなくなった。
桜の花びらが溶けた空からは、全てを包み込むような暖かな光が降り注ぐ。
姉は後悔を口にする。しかし、せつなは首を振ってそれを否定した。
「お姉ちゃん。違うよ。せつながわがままを言ったのが悪いの。お姉ちゃんのせいじゃない。お姉ちゃんは、せつなに素敵な思い出をくれた。病院にばかりいたせつなに、お姉ちゃんは大切な思い出を作ってくれたんだよ。せつなの大切な思い出を、お姉ちゃんに悔いてほしくない。あの日のことは、お姉ちゃんにも大切な思い出にしてほしいの。お願い」
瞳に涙をためてせつなの思いを聞いていた蒼井は、口を引き結び手の甲で涙を拭う。そして、決心したように強く頷いた。
「ごめんね。せつな。本当はずっと後悔してた。でも、もうあの日を悔いたりしない。だって、あなたの思いをここに受け取ったから」
無意識のうちに触っていた左手に填まるおもちゃの指輪をじっとみつめる。それから、真剣な眼差しを目に映らぬ妹に向けた。
その時、花散らしの風が、どこからか桜の花びらを運んできた。中庭に小さなつむじ風が巻き起こる。蒼井は、その中に肩ほどまである髪を2つに分けて縛り、大きめの真新しい制服を身に纏ったせつなの姿を見たような気がした。
つむじ風がどこかへふわりと去っていき、あとには、桜の花びらが残されているのみだった。やはり、そこにせつなの姿は見えなかった。しかし、姉は確かに妹がそこに居るのを感じていた。
蒼井は浩志と優の側へ近づくと、足元の桜の花びらをそっと拾い上げる。手にした桜の花びらが妹の一部であるかのように、慈しみ優しく握りしめる。そして目を瞑り、まるで手の中のそれに誓いをたてるようにそっと囁いた。
「あのね、スターチスの花言葉は『変わらぬ心』『変わらない誓い』『途絶えぬ記憶』って言うの。お姉ちゃんは、スターチスに誓うわ。せつなとの大切な思い出を絶対に忘れたりしない。いつも、心の中で大切に思っているから」
ゆっくりと両手を開き、手の中の小さな妹を愛おしげに見つめる。そんな姉の頬を撫でるように暖かな風が吹き過ぎた。その風にさらわれるようにして、手の中の花びらはふわりと舞い上がる。そして、そのまま風に流され空高く去っていく。その場にいた全員が無言のまま、去っていく花びらに目を奪われていると、やがて花びらは、空に溶けるように見えなくなった。
桜の花びらが溶けた空からは、全てを包み込むような暖かな光が降り注ぐ。



