せつなはいつの間にか随分とこの上級生に懐いていたようで、嬉しそうな笑顔を見せる。そんな様子に浩志はつい口を挟んでしまった。

「おい、せつな。この人って、もしかして前に言ってた?」
「そう。前に話した、せつなにココロノカケラの事を教えてくれた人」
「……じゃあ、やっぱり天使……」

 浩志とせつなの会話に、上級生は困り顔を見せる。

「あらー。やっぱり言っちゃったか。誰にも言わない約束だったでしょ?」

 上級生の指摘に、せつなはえへへと笑って見せる。

「ちょっとヒントを出しただけだよ。センパイの名前は言ってない」
「もう。そういう事じゃないんだよ。せつなちゃん。……まぁ、仕方ないか。じゃあ、あとは」

 上級生は目線を少し上に向け、しばし無言のまま、時折頷くようにわずかに首を動かしていた。まるで誰かの話を聞いているようなその動きを、浩志と優は不思議そうに見守る。せつなだけはあまり周りの空気を気にせずに、緑の絨毯を愛おしそうに眺めていた。

 しばらくして上級生は何かを決断するように一度大きく頷くと、視線を浩志と優に戻した。

「せつなちゃんからどうやって聞いているか分からないし、そのことを信じるかどうかはきみ達に任せるよ。私は、肯定も否定もしない。ただ、きみ達にはあまり時間はないよ。それだけは信じてほしい」

 上級生の表情は真剣だった。しかも、表情とは裏腹に、曖昧な物言いがなぜか一層真実味を帯びさせ、浩志と優に寂しさと緊迫感を感じさせる。

「あの……。俺は正直、天使とか言われてもすぐには信じられない」
「まぁ、そうだろうね。それが普通の反応だと思うよ。だから、きみが信じないと思うのなら、それでいいんだ」

 浩志の遠慮がちな言葉に、上級生は至極当然という表情で頷き返す。

「……でも」

 そう口籠りながら、浩志は自分の中にある気持ちをうまく言葉にしようと、考えながら言葉を紡ぐ。

「せつなみたいな、ココロノカケラ? っていう、不思議な存在に会っちゃってるから、天使がいたっておかしくないのかも、とも思ってる」

 上級生は、浩志の言葉が思いもよらなかったのか目をパチクリとさせる。そんな上級生に優も真剣な顔で頷いて見せる。

「私もすぐには信じられないけれど、天使がいたっていいと思います。それに天使かどうかは置いといて、先輩はココロノカケラについて詳しいんですよね? 私たちは、ココロノカケラについて話を聞きたいと思っていました。先輩、教えてください」