しばらくすれば大人たちも来るだろうと、ワイワイと本日の感想を言い合いながらいつもの花壇前まで来ると、そこには先客がおり思わず足を止めた。学校指定のジャージに軍手とジョウロを手にしたその先客は、緑の絨毯が広がる花壇をじっくりと観察している。ジャージの色からして、高等部の生徒のようだ。

 その顔に見覚えのあった浩志は、記憶を探るように首を傾げる。彼が自身の記憶を辿っている間に、せつなは親しげな声をあげながら先客へ駆け寄った。

「センパイ。来てたんだ」

 せつなの声に振り向いたその先客は、いつだったか、浩志を強引に園芸部に誘ったあの女子生徒だった。

「ああ。せつなちゃん。こんにちは。あなたのスターチスに水をあげていたところだよ」
「いつもありがとう」

 せつなとその女子生徒は、親しげに言葉を交わす。その様子を不思議に思った優は、小声で浩志に問いかけた。

「ねぇ、あの人。せつなさんと話してるよ。せつなさんが見えているってことだよね? 他の人には見えないはずなのにどうして?」
「さぁ? でも、前に会った時も普通に話してたぞ。確か」
「えっ? 成瀬、あの人のこと知ってるの?」
「ああ、高等部の園芸部の人。知ってるって言うか、前にここで会ったことが」

 浩志は自身の言葉に目を見張る。

「なぁ。あの人が、せつなが前に言ってた天使なんじゃないか?」

 浩志がポロリと溢した言葉に、優が目を丸くする。浩志自身も驚きのあまり、目と口をポカリと開けて固まった。その場で固まる浩志たちをせつなは振り返り、手を振って呼ぶ。

「優ちゃーん。成瀬くーん。早くー。センパイが、水やりしてくれたってー」

 そんな声に引っ張られるように、二人はぎこちない足取りでせつなの元へと歩み寄った。そばに来た二人に、上級生は笑顔を向ける。

「あら、きみは確か前にも会ったよね? 園芸部のこと考えてくれた?」
「……いえ、俺は」

 得体の知れなさからか距離を取る浩志に上級生は苦笑いを浮かべつつ、今度は優に声をかける。

「あなたは、はじめましてよね?」

 いつもは物おじしない優も、何も言葉を発せずただコクリと頷いただけだった。

「私は園芸部員で、たまにここのお手入れをしてるんだ。怪しい者じゃないからそんなに警戒しないで」

 二人の態度を気にした様子もなく、上級生はコロコロと笑いながらせつなへ視線を戻す。

「それで? もしかして、何か進展があった?」
「すごい! さすがはセンパイ。やっぱりわかるんですね」