「もう、本当にびっくりしたんだから」
「ごめんね~。どうしてもせつなさんをびっくりさせたくて、内緒にしちゃった」

 口を尖らせながら後ろを歩く二人に抗議の声をあげるせつなに、優は悪びれもなく楽しそうに弁解する。そんな彼女をせつなは左肩越しにチラリと振り返る。

「そうだぞ。河合がサプライズだって言うから。黙ってるの、めちゃくちゃ大変だったんだからな」

 優の隣を歩く浩志はやり切った感を醸し出すように少し胸を張って、いかにサプライズをすることに細心の注意を払っていたかを力説する。そんな浩志のことも自身の右肩越しにチラリと振り返ってから、せつなはもう一度口を尖らせた。

「事前に知ってたらあんなに驚かなくてよかったし、そしたら、もっとお姉ちゃんと話せたかもしれないのに」

 思いがけないせつなの反抗的な態度に、優は少し不安になった。

「あの、せつなさん? もしかして迷惑だった? 私たち、せつなさんが本当はあのお花を蒼井先生に渡したいと思っているの知ってたから。だから、力になれたらって」

 言葉が口から零れる毎に不安が募り、優の言葉は次第に小さくなる。その声にハッとしたせつなは立ち止まり振り返ると、勢いよく優に抱き着いた。

「優ちゃんごめん。違うの。ホントは、二人の気持ちすごく嬉しかったの。嬉しかったのにびっくりしすぎて、素直になれなくて……ごめんね。あの、ありがとう」

 せつなの言葉を聞いて、少女に抱き着かれたまま優はホッと安堵の息を吐く。

「良かった。迷惑じゃなくて」
「迷惑なんて、そんなことない。本当にありがとう。成瀬くんも、ありがとう。嫌な態度取ってごめんなさい」

 せつなは優から離れると、二人に向かって感謝と謝罪の意を込めて頭を下げた。そんなせつなに、浩志は冗談めかして軽く言う。

「でも、せつなの気持ち俺はわかるぞ。サプライズって本当は困るよな。どういう態度取ればいいか分かんないもんな」
「ええっ? そうなの? なによ。だったら先に言ってよ。私、誰だってサプライズは嬉しいものだと思ってたのに。うう……これから、気をつけよ」

 浩志の言葉に驚いたように目を見開いた優は、俯きがちに肩を落とした。

「あはは。優ちゃんそこまで気にすることないよ。びっくりしたけど、せつなは二人の気持ち、とっても嬉しかったんだから」

 せつなはそうフォローしつつ、再び二人の少し前を歩きだす。

 彼らは体育館の片付けをした後、蒼井との約束通り中庭へと来ていた。