せつなは二人の粋なサプライズに目を丸くしていた。せつなの正面に立つ姉の蒼井教諭も同じように目を丸くしており、やはり姉妹なのだと思ってしまうほどにその表情は似通っていた。

「ちょ、ちょっと待って……()()()()って、どういうこと? あなたたちは、誰のことを言っているの?」

 せつなという名に驚きを隠しきれず少々困惑気味の蒼井の肩に、小石川が軽く手を置く。彼女を落ち着かせるように目を見て、ゆっくりと口を開いた。

「落ち着け、永香。正人も聞いてくれ。信じられない話なんだが、成瀬たちは、せつなを……お前の妹を知っているんだ」
「しゅ、俊ちゃん。何言っているの? だって……あの子は……」

 蒼井は動揺からさらに大きく目を見開き、言葉が続かない口はパクパクと空気を吐き出していた。

「お前の言いたいことはわかる。せつなは、十五年前に俺たちのもとを去った。だけど、どういうわけか成瀬たちはせつなに会ったみたいなんだ。実際に俺がせつなに会ったわけじゃないけど、でも、こいつらが嘘を吐く理由はないし、そんなことをする奴らじゃないことは永香だって知っているだろ?」
「……」

 蒼井の瞳は揺れていた。もちろん浩志たちが、嘘をついているとは思わなかったが、しかし、現実的にはすんなりと受け入れられるようなことではない。何処を見るともなしに視線をあちらこちらへ彷徨わせ戸惑いを隠さない姉に、せつなは堪らず声をあげる。

「お姉ちゃん! せつなだよ! ここにいるよ! お姉ちゃんの目の前にいるんだよ!」

 せつなの必死の叫びは当然のように姉には届かず、蒼井の視線はいつまでたってもせつなを捉えない。せつなの必死の涙声に、浩志と優だけが顔を歪めた。そんな二人の様子に気がついた小石川が、思いつめたように浩志に問う。

「まさか、そこにせつなが?」

 小石川の言葉に、浩志と優はしっかりと頷く。そして、視線を互いの間に注ぐ。その視線を辿るようにして大人たちも二人の間へと視線を向けたが、そこには一人分ほどの空間があるだけだった。

 期待と絶望の入り乱れる中、悔しそうに顔を歪めていた浩志だったが、蒼井が持つ造花に目を留めると、ふとあることを思い付いた。

「せつな! 指輪だ! 指輪を貸してくれ!」

 浩志の言葉で、せつなは慌てて制服のポケットを探り始める。優にはそれが何を意味しているのかは分からなかったが、それでもその行動でせつなの存在を知らせることができればと、それだけを強く願った。