「あ、アレルギーとか?」
「ううん。そうじゃなくて、せつなには、食事は必要ないんだ」
「えっ? でも、さっき……」

 せつなの言葉に、優が、先程手渡したペットボトルを見れば、フタは開いているが、中身は減っていないことに気がついた。

「ココロノカケラには、食事は必要ないんだ」
「そうか……そうだね。少し考えれば分かることなのに、私ったら……」

 優は、寂しそうに顔を曇らせる。しかし、案外当の本人であるせつなは、あっけらかんとしていた。

「成瀬くん絶賛の、優ちゃん特製唐揚げが食べられないのは残念だけど、でも、十分楽しいから、そんな顔しないで。ね、優ちゃん」
「……ん。そうね」
「なんだぁ。せつな食べられないのか? じゃ、俺がせつなの分まで代わりに食べてやるよ」
「あはは。成瀬くん。ありがとう! せっかくの優ちゃんのお手製なんだから、唐揚げ以外も残さず食べてよ」
「おう! 任せろ」

 浩志の能天気な返しに、せつなは大いに笑う。そんな2人のやり取りに、優は救われた。食べ物なんかよりも、その場を楽しむこと。それがせつなにとって一番良いと気持ちを切り替えると、彼女も食べ物へと手を伸ばす。

「ちょっと、成瀬。私は、食べるんだから、全部は取らないでよ!」

 そんな感じで、それぞれのテーブルでも、ワイワイと盛り上がりを見せていると、司会の声が次の予定を告げる。

 どうやら、次は、結婚式ではお馴染みの「初めての共同作業」企画のようだ。

「お! ケーキが食べられるのか?」

 司会の進行に、浩志が、感心したように声を上げると、パーティーの内容を知っている優は、苦笑いを浮かべた。

「そんなわけないでしょ。このパーティーに予算なんてほとんどないんだから。人数分のケーキの準備なんて無理よ」
「じゃあ、何するんだよ」

 浩志が不思議がっている間に、マイクを通して、司会が参加希望の生徒を舞台下へと呼び集める。

「2人とも行こう!」

 優に促され、2人は、他の生徒に混じり、ゾロゾロと繰り出した。

 主役である新郎新婦が、次は何が始まるのかと、興味津々に、ことの成り行きを見守っている中、生徒の人数が粗方集まったと判断した司会の進行で、綺麗にラッピングされた藤の籠が壇上へと上げられ、新郎新婦の前に置かれた。

 そして、係の生徒がポケットから、リボンを結んだハサミを取り出し、新婦蒼井へと手渡した。