(やっと見つけた!)

 浩志は弾かれたように窓を離れ、廊下へと飛び出した。

「ねぇ、ちょっと! どうしたのよ!?」

 背中越しに追いかけてくる優の質問に答えようともせず、彼は少女のもとへと急いだ。

冷たい風が吹き抜ける中庭に浩志が飛び出すと、少女の姿はまだそこにあった。

 まるで何かを探しているかのように真剣な眼差しを花壇に向ける少女の背中に向かって、彼は息を切らしながら声をかけた。

「……何か……探し物か?」

「……?」

 突然声をかけられた少女は、驚きを隠せない様子で振り向いた。

 彼は、少女の視線を捕らえると、息を整えてから再び少女に問い直した。

「何か探しているのか?」

 少女は、質問には答えずに、頭だけを横に振った。

「そうなのか。もしかしたらこれを探してるのかと思って……」

 そう言いながら、浩志はズボンのポケットから、今日一日彼を悩ませ続けたものを取り出した。

 指輪を少女に返しながら、浩志は言葉を続けた。

「昨日、慌てて帰った時に、どうも持って帰っちまったみたいで……。悪かったな。別に悪気があったわけじゃないんだ。ホントだぞ」

 無言で指輪を見つめる少女に向かって、浩志はさらに言葉を続けた。

「朝一で返そうと思って、教室まで行ったんだ。……でも、ほら。違う学年だろ? 他の奴らにジロジロ見られてさ……長く待てなかったんだよ。ホントは、もっと早く返すつもりだったんだ。ホントごめんな」

 浩志の言葉に少女は、再び頭を横に振った。

「お前、こいちゃんのクラスだろ? あいつからお前に返して貰おうかとも思ったんだけどさ、もしかしたらソレ、先公にバレたらまずいかもと思ってさ。こいちゃんにも渡せなくて……」

 自分の手の中に戻った指輪を黙って見つめる少女に向かって、浩志は鼻の頭をかきながら、言い訳がましく言葉を繋げた。

「それにほら。お前の名前、知らないしさ。こいちゃんにも頼むに頼めなかったんだよ」

 浩志の多くの言い訳など、耳に入らないような無表情のままで、少女は指輪を見つめ続けていた。

 これ以上の言い訳を思いつかない浩志と少女の間に、沈黙が訪れる。

 浩志は少女の反応をしばらくの間伺っていたが、微動だにしない少女の様子に、居た堪れなくなり、俯いて自分の足元を見つめる。

 しばらくすると、冷たい風に乗って、微かな声がした。

「……指輪、返してくれてありがとう」

 少女の言葉に、顔を上げた浩志は、少女の微かな微笑みを目にした。