浩志は、しばらく夢中でアイスクリームを食べ進め、あっという間に、カップの底で溶けてしまった液状のクリームまで掬い取った。アイスクリームの冷たさは、彼の忙しない鼓動を落ち着けるには、ちょうど良かった。

 満足そうに鼻から息を抜いた浩志は、改めて口を開く。

「それで? 今日の呼び出しはなんだ? まさか、アイス食べるだけが予定じゃないだろう?」

 浩志の問いに、ちょうどアイスクリームを食べ終えた優は、舌先でペロリと唇を舐めとってから、頷いた。

「うん。ここは、ただの待ち合わせ場所。コレは……昼食後のデザートってことで」

 空になったカップを持ち上げ、軽く振りながら、彼女は、エヘヘと笑う。その時、片側だけに出る八重歯と笑窪が顔を覗かせ、浩志は思わず微笑んでしまった。

「何よ〜。もう。どうせまた、太るぞとか言うんでしょ」

 そんな浩志の僅かな笑みを見てとった優は、何を勘違いしたのか、すぐにむくれ顔になり、八重歯と笑窪は隠れてしまう。

「何にも言ってないだろ。やめろ、被害妄想」

 苦笑いをしつつ、浩志は優を宥めると、話の先を促した。

「で、本題は?」
「ああ、うん」

 優も、むくれ顔を戻すと、浩志の目を見て本日の要件を話し始めた。

「成瀬さ、今日、何の日か知ってる?」
「は? それって、365日記念日的なことか? そんなの知るわけないだろ」

 浩志の取り付く島もない答えに、今度は優が苦笑いをする。

「あ〜、ごめん。私の聞き方が悪かった」

 優は、脱力したように浩志に謝ると、質問を変えた。

「成瀬は、蒼井ちゃんの結婚式の日にち覚えてる?」
「そんなの、当たり前だろ! え〜っと、確か、3月……」

 浩志は上方を見上げながら、頭の中から答えを導きだそうとしていたが、元来、予定に無頓着に過ごしているせいか、すんなりと正解が出てこない。そんな彼に痺れを切らしたかのように、優は、自身で答えを口にする。

「もう! 3月25日」
「あ~、そうそう。25日……ってあれ?」
「やっと気がついた? 今日なの!」
「そっかぁ。今日だったか。でもまぁ、俺らには関係なくね? 式に行けるわけじゃないし」
「そうなんだけどね。なんか、今日なんだなぁって思ったら、居てもたってもいられなくて。私たちのパーティー、蒼井ちゃん喜んでくれるかなぁとか、蒼井ちゃんにも、せつなさんにも思い出に残るようなことができたらいいなとか思って……」