人待ち顔で店の奥に設置されたイートインスペースへ視線を向けると、奥の方の席で浩志に向かって手を振っている優の姿を見つける。浩志は応えるように軽く手を上げ、彼女のいる席へと向かった。優の向かいに腰を下ろす。すでに手を付けたのか、溶け始めているアイスクリームの入ったカップが彼女の前には置いてあった。

「悪い。待ったか?」
「ううん。そんなことない。とりあえず、成瀬も何か買ってくる? 私、ベリーベリーベリーっていうイチゴのアイスにしちゃった。期間限定なんだって」

 そう言って嬉しそうに笑う優は、いつもと何か雰囲気が違う気がした。目の前にいるのは、いつもの優のはず。小さな違和感に浩志がぼんやりしていると、優が不思議そうに小首を傾げた。すると、トレードマークのポニーテールの頭頂部で、ふわりと白いリボンが揺れる。それに視線を奪われていると、どこか可笑しそうな優の声が降ってくる。

「ちょっと、成瀬? どうしたの? まだ寝ぼけてるの?」
「あ? ああ。俺も何か買ってくる。待ってて」
「うん」

 浩志は慌てて席を立つと、レジカウンターへ注文に向かった。慌てたからか、心臓がいつもよりも忙しく動いているのがわかる。カウンターの向こう側から自分よりも少し年上に見える女性スタッフが、「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」と言っている間に、浩志はうるさい鼓動を落ち着けようと、大きく息を吐いた。

 気持ちを落ち着けてから、最近お気に入りのアイスクリームを注文する。メロンソーダのような色合いのアイスの中に、口の中でパチパチと爆ぜるキャンディーが混ぜられているそれを待つ間、浩志は席で一人待つ優の様子をチラリと伺った。

 今日の優は、ザックリと編まれた少し大きめの白のカーディガンに、ふんわりとした薄いピンク色のスカート、そして、白のくるぶしソックスと茶色のローファー。極めつけは、髪を飾る白のリボンだ。いかにもふんわりとした感じの女の子の格好をしている。彼はようやく違和感の正体に気がついた。浩志は、制服か学校指定のジャージ姿の優しか知らなかったのだ。

 違和感の正体に気づいてしまうと、またしても心臓が忙しく動き始めた気がした。アイスを取り落とさないよう、カップの形が少しばかりくずれる程に手に力を込めて持つ。どこかぎこちない足取りで優の待つ席へと戻った。優は無邪気に「何にした~?」と浩志の手の中を覗き込む。そして、遠慮なく笑いだした。