朝食とも昼食ともつかない食事を済ませ、母から小遣いを少しばかり貰い、財布を潤した浩志は、約束の時間の10分前に、優との待ち合わせである店に着いた。

 店内に入り、人待ち顔で、店の奥に設置されたイートインスペースへ視線を向けると、奥の方の席で、浩志に向かって手を振っている優の姿を見つけた。浩志は、それに応えるように軽く手を上げると、彼女のいる席へと向かう。優の向かいに腰を下ろすと、すでに手を付けたのか、溶け始めているアイスクリームの入ったカップが、彼女の前に置いてあった。

「悪い。待ったか?」
「ううん。そんなことないよ。とりあえず、成瀬も何か買ってくる? 私、ベリーベリーベリーっていうイチゴのアイスにしちゃった。期間限定なんだって」

 そう言って、嬉しそうに笑う優は、いつもと何か雰囲気が違う気がした。目の前にいるのは、いつもの、優のはずなのにと、小さな違和感に浩志がぼんやりしていると、優が不思議そうに小首を傾げた。すると、トレードマークのポニーテールの頭頂部で、ふわりと白いリボンが揺れる。それに視線を奪われていると、心配そうな、しかし、どこか可笑しそうな優の声が降ってくる。

「ちょっと、成瀬? どうしたの? まだ寝ぼけてるの?」
「あ? ああ。俺も何か買ってくる。待ってて」
「うん」

 浩志は慌てて席を立つと、レジカウンターへと注文に向かった。慌てたからか、心臓がいつもよりも忙しく動いているのがわかる。うるさい鼓動を落ち着けようと、注文口のカウンターの向こう側に立つ、自分よりも少し年上に見える女性スタッフに、笑顔で「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」と言われている間に、浩志は大きく息を吐いた。

 気持ちを落ち着けてから、最近お気に入りのアイスクリームを注文する。メロンソーダのような色合いのアイスの中に、口の中でパチパチと爆ぜるキャンディーが混ぜられているそれを待つ間、浩志は、席で一人待つ優の様子をチラリと伺った。

 今日の優は、ザックリと編まれた少し大きめの白のカーディガンに、ふんわりとした薄いピンク色のスカート、そして、白のくるぶしソックスと茶色のローファー。極めつけは、髪を飾る白のリボンだ。いかにもふんわりとした感じの女の子の格好をしている彼女の姿に、その時、彼はようやく違和感の正体に気がついた。浩志がいつも目にしている優は、制服か、学校指定のジャージ姿なのだ。