目覚まし用の携帯アラームが、頭上でブブッと振動を伴って、けたたましく鳴った。

 春休みに入って、6日目の朝。浩志は、モゾモゾと布団から手を伸ばすと、眠りの邪魔をするそれを無意識に止め、伸ばした手をそのままに、また、眠りの底へと沈んでいく。

 どのくらいそのままでいたのか、不意に止めたはずの携帯が手の中で震え出し、伸ばしたままの手を布団の中へ引き込むと、浩志は、薄めを開けて、携帯の画面を確認した。

 時間が表示されているだろうと思っていた画面は、着信を知らせている。

 寝起きで頭が回らないまま、通話ボタンを押し、携帯を耳へと当てた。そして、彼は、掠れた声を絞り出す。

「……はい?」
『おはよう! 成瀬!』
「……うん」
『なに? 寝てた?』

 電話の向こうからは、いつものように、弾んだ優の声が聞こえた。

「……ああ、イイだろ。今日は土曜だし。準備だって、休みにしようって言ってたじゃないか?」

 鈍い反応のまま、眠りを妨げた相手に対して、浩志は、抗議めいた言い方をする。

『いいんだけどね。私、今日、部活休みなのよ。だからさ、ちょっと付き合って欲しいの』
「……どこに?」
『そうだな……前に一緒に行ったアイスクリーム屋に集合でいい?』
「……う〜ん。これから、すぐ?」
『お昼、食べてからでいいわ。13時集合でどお?』
「あ〜、まぁ、別に良いけど。昼っだったら、こんな朝早くに電話かけてくるなよ」
『何言ってるの? もうすぐお昼よ』

 優の言葉に、浩志はようやく布団から顔を出した。壁にかけられた時計を見ると、時計の針は、まもなく11時半になろうかというところだった。

「あ、アレ? もう昼か?」
『そうよ。安定の寝坊ね』

 電話口で、優がカラカラと笑っている。

「うるせっ。久しぶりの寝坊だ」

 浩志は、言い訳にもならない言い訳を口にしつつ、顔を顰めながら、ようやく、ベットから這い出した。

『どうする? もう少し時間遅らせた方が良さそう?』
「ん〜、いや。いい。13時で」
『そう? じゃ、また後で』

 それだけ言うと、優は電話を切った。浩志は、まだ少しぼんやりしたまま、寝癖のついた髪をクシャリと掻いた後、一つ伸びをすると、ベットから腰を上げた。

 ひとまず、出掛ける用の服をクローゼットから出し、ベットの上に投げ捨てる。それから財布の中身を確認した。少し中身が心許ないような気がする。浩志は、財布を机の上に置くと、慌てて、部屋を出た。