「だけど?」

 優は完全に作業の手を止めて、浩志から午前中の話を聞くことにした。

「予定通り、俺とせつなは午前中にこいちゃんのところへ相談に行ったんだ」
「うん。だから、部活動として利用出来るって教えてもらったんでしょ?」
「……そうなんだけど……その……せつなの事がさ……」

 言いにくそうに切れ切れに話す浩志と、俯いたままのせつなの態度から、優はようやく状況を理解した。

「あ〜、やっぱり小石川先生には?」
「……うん。……見えなかったんだ」
「……そっか……そうなんだ……せつなさん? 大丈夫?」

 優はせつなを気遣って声をかけたものの、その後、どう言葉を続ければ良いか分からず、結局彼女も俯いてしまった。

 しばらくすると、せつなは三人を包み込んでしまった重苦しい空気を振り切るようにばっと顔を上げ、無理矢理に笑顔を作る。

「ごめんね、二人とも。気を使わせちゃって。まぁ、ショックはショックなんだけど」

 そう言うと、せつなは顔をクシャリと歪ませた。

「でもまぁ、今までもそうだったわけだし。今日、成瀬くんが改めてせつなのこと説明してくれて、俊ちゃんも見えないながらも、せつなのこと信じてくれたし……。その上で、なんとか学校でお祝いが出来るようにって考えてくれたからさ。もうそれでいいよ。お姉ちゃんにも俊ちゃんにも見えなくたって……せつながここに居て、お姉ちゃんの為に動いているんだって俊ちゃんに伝わっただけで十分」

 まだ幼さの残る可愛い顔を歪ませる。必死に涙を堪えるせつなと同じように、優も幾分顔を歪ませ苦悶の表情を見せた。

「せつなさん……」

 優の手を取り、せつなは彼女の目を真っ直ぐに見つめる。

「無理なものは無理なんだよ、優ちゃん。そこまで背負わなくていいよ。せつなには、まだやれる事がある。優ちゃんが居てくれるから、出来ること……」

 優は一度グッと目を閉じると、気持ちを切り替えるようにパチリと目を開けた。

「絶対にここで、お姉さんの、蒼井ちゃんの結婚祝いパーティーをやろう! 成功させよう!」

 優とせつなは、互いの手をきつく握り合って頷いた。

「でもさ~。成功させるったって、実際問題どうするんだよ? 俺たちだけじゃ大したことはできないぞ」

 浩志がその場に水を差すように問題点を指摘すると、優は、せつなの手を離し、人差し指をビシリと彼に突きつける。

「だから、さっき言ったでしょ。うちの部でやるのよ。実は、今日遅くなったのも、それが理由なの」