浩志の答えに、優は苦笑いを浮かべる。それから、気を取り直したように、真顔になると、話を続けた。

「だからね、せつなさんがお母さんの事をこれまで思っていなかったのは、そういう事なのかなって、私は思うの。忘れていたとか、そういう事じゃなくて、せつなさんを形作っているもの、学校や花や制服や、それに関連する思いが、より強く表面に出ていただけ」

 優は、真顔のまま、せつなを見据え、キッパリと言い切る。

「でも、お母さんの事が全くせつなさんの中にないかというと、それは違って、お花を見たいと思うせつなさんの中にも、やっぱり、お母さんという要素はちゃんとあって、さっきの、成瀬の言葉をきっかけに、お母さんの事が、意識の表面上へ引っ張り上げられたんじゃないのかな」

 少女は、顔を上げて、涙の止まった瞳で、優の真顔を受け止めていた。

「そう……なのかな」

 せつなは、小首を傾げつつ、自分の中の思いと向き合おうとするかのように、中空を見つめ、ぼんやりとする。

 そんな、せつなと優の顔を交互に見比べつつ、浩志は感心したように口を開いた。

「お前、すごいな。なんでそんなこと知ってるんだよ?」
「知ってる訳じゃないよ。ただ、そんな気がするだけ」

 優は、困ったように肩を竦め、また、真顔になる。

「それでね、私は、せつなさんの力になりたいと思ってるの」
「え?」

 突然の優の言葉に、それまでぼんやりと中空を見つめていたせつなは、戸惑ったように目をパチクリとする。

「せつなさんのココロノカケラが、どこにどれだけあるのかは分からない。でも、今、私の目の前には、せつなさんがいるの。いるのかわからない、せつなさんのココロノカケラを探すことはできないけれど、目の前にいるせつなさんに協力することはできる。ううん、協力したい。だって、友達だもん」
「優ちゃん……」

 せつなは、息を詰まらせたのか、それだけを言うのが精一杯のようだった。代わりに、少女は、優にもう一度しっかりとしがみつき、感謝の意を全身で伝える。

 それを見ていた浩志は、なんとなく自分だけ蚊帳の外に居るような疎外感を感じた。自分も、これまで協力してきたし、これからもそのつもりでいるのにと、内心、唇を尖らせていたが、ここは、口を挟むべきではないと、明後日の方を向き、口を噤んでいた。

 優はせつなと友情の抱擁をしっかりとした後に、そっと体を離すと、今後の行動を口にする。