声のした方へ視線を向けると、優が可笑そうに笑いながらやって来る。そして、浩志の姿を上から下までじっくりと観察した。朝とは違ってきちんとした身なりになっていることにニヤリと含み笑いを見せる。

「朝、起こしに行って正解だったわね!」
「……早過ぎだっつーの」

 満足そうな彼女に浩志は顔を顰めて見せたが、彼女はそんな事はお構いなしにせつなへと声をかける。

「あのね。私、今日はせつなさんに確認したい事があるの」
「何? 優ちゃん」

 せつなは優に向かって軽く小首を傾げて見せた。そんな少女の目をしっかりと見つめて、優は慎重に言葉を選びながら確認するように口を開いた。

「もしかしてなんだけど……せつなさん、蒼井先生の結婚式に出席したいな、なんて思ってたりする?」

 優の言葉に、浩志とせつなは驚きのあまり思わず顔を見合わせた。それから、浩志は感心したような声を漏らす。

「すごいな、お前。今、ちょうどせつなとその事を話してたんだよ」

 浩志の言葉にせつなもコクコクと首を縦に振る。

「やっぱりね! 昨日、いろいろ考えたのよ。せつなさんのこと。折り紙のお花のことも聞いてたからね。案外簡単に思いついたわ。で、ここからが本題なんだけど……」

 優は言葉を切り一息つくと少し顔色を曇らせた。

「せつなさんは、ここから離れる事は出来るのかな? 例えば、お家へ戻るとか」

 優の言葉にせつなはハッとしたように目を見開いたあと、空気が抜けるかのようにシュンとなってしまった。

「……やっぱり無理なのね」

 せつなの態度で全てを悟った優も、少しばかり項垂れる。女の子たちの間で一人状況が分からない浩志は、焦ったように声をかける。

「な、なぁ? どう言う事だよ?」

 すっかり項垂れてしょぼくれているせつなを気遣いつつ、優が説明をする。

「あのね。昨日の話を聞いてからずっと考えてたの。せつなさんはどうして学校にいるんだろうって」
「どうしてって……それはせつなが願ったからだろ?」
「そう。『新しい制服を着て学校に行きたいって。お姉ちゃんとお花を見たい』って、せつなさんが強く願ったから。だから、せつなさんは()()にいるんだと思うの」
「そうだろ? だからさっき俺たちは、蒼井かこいちゃんにせつなのことを話して、結婚式に出られるようにしてもらおうって話してたんだよ」

 浩志はまるで名案だろとでも言いたげに胸を張っている。そんな彼に向って優は力なく首を振る。

「多分だけど、それはできないと思う」